遊侠五人男

 

1958年1月15日公開/1時間25分大映京都/カラービスタビジョン

併映:「有楽町で逢いましょう」(島耕二/京マチ子・菅原謙二)

製作 永田雅一
企画 高桑義生
監督 加戸敏
原作 川口松太郎(オール読物連載)
脚本 八尋不二
撮影 武田千吉郎
美術 西岡善信
照明 岡本健一
録音 大角正夫
音楽 鈴木静一
助監督 西山正輝
スチール 小牧照
出演 長谷川一夫(駒木野の源八)、勝新太郎(野州無宿の徳次郎)、梅若正二(韮崎の佐吉)、黒川弥太郎(佐原の又四郎)、木暮実千代(お藤)、阿井美千子(桐佐のお仲)、近藤美恵子(お加代)、中村玉緒(お千枝)、田代百合子(おさわ)、小堀明男(沢村米五郎)、春風すみれ(芸者うさ吉)、浜世津子(同ぽん太)、真風圭子(吉野太夫)、若杉曜子(芸者おぢえ)、大美輝子(芸者お多福)、橘公子(つたやの女中お滝)、杉山昌三九(我孫子の九兵ヱ)、清水元(松平与八郎)
惹句 『花のやくざの五人男が大型場面で大暴れ』『さあ出た一人づつでも滅法強い五人揃えば文句なし斬って暴れて天下無敵』『五大スタアが切っ先揃え、花のお江戸で殴りこみ』『年に一度のおお顔合せの、配役も興味も五倍の大衆時代劇』

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 オール読物連載の川口松太郎の原作を八尋不二が脚色。

新春の銀幕を飾る空前の顔合せ

加戸敏監督で 『遊侠五人男』 の製作決定

長谷川、雷蔵、勝、梅若、黒川の競演で

 正月作品で慌しい大映京都で、長谷川一夫、市川雷蔵、勝新太郎、梅若正二、黒川弥太郎の珍しい顔合せが行われた。これは大映が正月に封切する五人の競演物『遊侠五人男』の製作が決定、その打合せのためで、他社の大作を一挙に粉砕せんとの画期的な試みである。

 今まで同じ所で働きながら仕事の都合でなかなか顔を合せることのない五人男だけに、会えばいろいろと話がはずむ。重役スター長谷川が貫禄からいってもおのずと話の中心になるのは当然で、この五人男の勝手な言分を整理するのが、演出にあたる加戸敏監督である。

 『遊侠五人男』はオール読物十二月号に所載された、川口松太郎の原作を、企画者高桑義生と脚本家八尋不二とが打合せの結果まとめあげたもので、話は、子分の不始末から、騙されたとは知りながらも、身替りとなって江戸送りとなる親分の危窮を、四人の男伊達が力を合せて救い出すという任侠に富んだ絢爛たる娯楽篇で、そのクライマックスは、花の吉原仲ノ町の大通りで大立廻りとなっている。

 この豪華な顔触れを大映の誇るビスタビジョン・総天然色でうつし出そうとするのだから、正に鬼に金棒である。才腕を買われて演出にあたる加戸敏監督も、これだけの多彩なキャストを与えられては、文句のいいようがなく、自己の才腕を奮うのはこの時とばかり大張切りである。

 今までの顔見世的なオールスター物とちがい、この『遊侠五人男』は名実ともに五人のスターの競演物だけに、その五人の魅力ある個性をどうして描き分けるか、ここに加戸監督の悩みがある。

 大映が来年一年の社運を賭す作品であるため、この打合せはなかなか慎重で、詳細なスタッフ、キャストはまだ未定であるが、製作は社長永田雅一自らが当り、企画=高桑義生、原作=川口松太郎、脚本=八尋不二、監督=加戸敏、撮影=武田千吉郎とベテランが顔を揃え、大作としての風格をととのえている。(寿会会報No.7より)

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■ 解 説 ■

★ 大映京都を背負って立つ五人の人気男が初めて顔を合わせる豪華絢爛たる文句なしの超娯楽大作で、大映カラー総天然色・ビスタビジョンサイズの大型時代劇であります。

★ 長谷川一夫、市川雷蔵、勝新太郎、梅若正二、黒川弥太郎の五人男が侠気に富んだ任侠の世界を背景に展開する異色ある股旅映画で、これを色どる女性群に、妖艶木暮実千代、阿井美千子、清純近藤美恵子、中村玉緒、田代百合子が競演、大敵役として小堀明男と、文字通りの豪華キャストで、大型画面一杯に大暴れするものであります。

★ 「オール読物」十二月号所載の川口松太郎の原作を得て、ベテラン八尋不二が脚色に当たっております。大映の総力結集篇だけに、製作は社長永田雅一、企画は老練な高桑義生であります。

★ 演出には、『雪の渡り鳥』で好調を示した加戸敏監督が息つぐまもなく真っ向から取り組んでおり、これを助けるキャメラマンは武田千吉郎で、大映京都の誇る優秀なスタッフが選ばれております。(大映京都作品案内No.532より)

 

 【京都発】大映の時代劇を背負って立つ重役スターの長谷川一夫をはじめ市川雷蔵、勝新太郎、梅若正二、黒川弥太郎の五人が、はじめて競演する正月作品『遊侠五人男』(監督加戸敏)は、いま大映京都で追込み撮影を行なっている。

 今年の不振を、この一作でふきとばすという意気ごみだけに、その熱の入れようようは大変なもの。スターたちはセットの合間にも、演技の工夫に余念がない。これはライティング待ちの間、長谷川をかこんだ雷蔵、黒川と、加戸監督の四人の"娯楽作品"談義である。

 長谷川、雷蔵、黒川の共演が終ってホッと一息ついたところ、雷蔵が「どうも難かしい」と首をかしげると、黒川が「娯楽作品は難かしいもんだよ」と雷蔵の肩をたたく。この雷蔵、黒川のやりとりをきいていた長谷川一夫は「そうなんだ」と大きくうなずきながら、こう語り出す。

 「ジャーナリストは芸術、文芸作品を重要視して、娯楽物は問題にしない。演技者としては娯楽作品の方が難かしい。文芸ものには原作があるから、よりどころがあってラクだ。それにくらべると娯楽作品は、自分の魅力━つまり一作ごとに新しいものを出す工夫、と監督の意見を合わせてやらなければならない。だから難かしいんだ」

 二人の顔をみくらべながら、さらに言葉をつづけて

 「僕がこういうものを演りたいと、会社に申込んでも全然とりあげてくれない。映画生活三十年のうち、僕の企画が通ったのは、この前の『雪の渡り鳥』と、いま準備中の『江戸ッ子祭り』(来春二月封切予定)の二本だけだ。監督にでもなれば、会社に対していろいろ発言できるだろうが・・・」

 雷蔵が体をのり出し「先生がそんなこといっては困りますよ。僕は二十代で監督しようと思っているんですから・・・。その節は先生に主演をお願いします」

 「ムチャいってはいけない。監督をやらせてくれと会社にいってもダメだろう。僕は大映に入って十年になるが、まだ僕のいうことが通らないんだからネ」

 長谷川の話をうなずきながらきいていた黒川は「私も新しい形をファンにみせようと苦心してきましたが、いまだに自分の形、魅力に疑問をもっています」

 そばできいていた加戸監督は、演出者の立場として「俳優さんの場合もそうだろうが、演出家も同じだ。例えばいま撮っている『遊侠五人男』にしても、五人が顔をそろえるだけではなく、ワンカットごとに俳優さんの魅力を出さなければならない。演出家と俳優のイキがピッタリ合わなければ、娯楽作品はとてもできない」とやはり娯楽作品のむずかしさを強調していた。(スポーツ報知12/17/57)

■ 物 語 ■

 野州無宿の徳次郎は、恋人のお千枝が父のイカサマ博打のかたとして悪人沢井米五郎の乾分に拉致されるや、何の見境もなく、その後を追い、これを腕づくで救い出した。喜ぶ二人が、手に手をとって宿に入ろうとした時、その行く手に立ち塞がったのは、米五郎の乾分達。後ろには用心棒須藤勝市郎が不気味な笑みを浮かべていた。徳次郎は乾分の一人を斬り倒したが、豪剣を振う勝市郎のために窮地に追い込まれ、アワヤという時、勝市郎の面上に石礫が飛んできた。勝市郎のたじろぐ隙に徳次郎は虎口を脱したが、愛するお千枝の姿は、既にそこにはなかった。

 切歯する徳次郎の肩をポンと叩いたのは、先程、勝市郎に石礫を投げた仇な旅姿の女お藤である。徳次郎が佐原の又四郎の乾分と知るや、お藤は、何故か意味あり気に駒木野の源八の消息を訊ねた。駒木野の源八は、徳次郎の兄貴分で、生憎く親分の又四郎の代参として身延へ行っていた。

 そして、それから数日。お藤と道中を続けた徳次郎は泊まった宿で、売りとばされていたお千枝と偶然にも出会った。嬉しさで夢中になった徳次郎は、道連れのお藤をほったらかしてお千枝の手をとってドロンを決めた。あとに残されたお藤は、徳次郎の逃げ出したのを知ったが後の祭り。宿の亭主から、お千枝の身代金五十両を強請されたが、ない袖の振れる筈もない。それでは体で支払って貰おうと因業亭主に迫られ、さすがに大弱りになっている時、サッとしきりの障子を開けて入って来た旅鴉。気前よくお藤の前に五十両を投げ出し、物も云わずに出ていった。この男こそ源八であった。

 お藤は、源八に伯父の旗本松平与八郎が事もあろうに女のことから沢井村米五郎の凶刃に倒されたと告げた。この世にたった一人の身寄りの伯父の無残な最期に血も逆流する思いの源八の耳に、その米五郎が捕われて、軍鶏篭で江戸送りの途中だとの噂が入って来た。

 富士の見える甲州街道大月の宿はずれで源八は、軍鶏篭の一行を待ち伏せた。その軍鶏篭は郡代のお手先妻木兵三郎が宰領していた。源八はつかつかと軍鶏篭に近づき、「囚人のゆかりの者、お慈悲を以て一目お会わせ願いたい」と申し出た。役人への鼻薬の甲斐あってか、源八は軍鶏篭へ近づくことを許された。だが憎い米五郎め一突きと意気込む源八の前に姿を見せたのは、意外にも親分佐原の又四郎の捕われの姿であった。目を瞠る源八に又四郎は、徳次郎の不始末を救わんがために米次郎の身替りとなったのだとその間の事情を物語った。

 その夜、源八は軍鶏篭の一行が泊った宿役場に忍び込み、又四郎の奪回を計ったが、これを事前に察知して自ら警固に当たっていた妻木兵三郎のために阻止された。源八と顔を見合わせた兵三郎は、その奇遇に驚いた。それもその筈二人はかっての道場友達であった。又四郎を助けたくば、米五郎を一日も早く捕えて、江戸郡代屋敷へ連れて来い。その日まで、又四郎は伝馬町へは入れない、との友情こもった兵三郎の言葉に、源八は非道な米五郎を必ず捕えようと眦を決した。

 杳として足跡を晦ました米五郎を求めて源八は必死であった。そして空しく歩き疲れて一夜の宿をとった。その耳に聞き覚えのある新内が流れて来た。源八が呼び止めてみると、案の定、今ではお千枝と夫婦気取りでいる徳次郎であった。源八からその横ッ面をなぐられ、自分故に親分の又四郎の窮状を知った徳次郎は、さすがに面目ない。源八はお前は親分の跡を追えと突き放すのだった。

 もはや源八に残された米五郎を追う手掛りはただ一つしかなかった。それは、韮崎の佐吉の処であった。先代の韮崎の佐吉と米五郎とは兄弟分である以上、米五郎が身を寄す可能性は濃い。その上現在の佐吉は、源八の弟分小原の与吉で、その侠気を見込まれて入り婿になった身の上であれば、尚更先代の義理で無下にも拒めない。

 源八の想像通り、米五郎は用心棒須藤勝市郎ら乾分を伴って、佐吉の許に草鞋を脱いでいた。目に余る阿漕な真似も義理故にと、必死に耐える佐吉を慰めるのは、許婚のお加代であった。

 そこへ、米五郎の行方を求めて源八がやって来た。佐吉は口からハッと出かかるのを抑え、何喰わぬ顔で源八を送り出したもののたまりかねて、その後を追った。宿はずれの小川のほとりで、やっと追いついた佐吉から、米五郎が今家にいる、何とかして追い出すから存分にしてくれと言われ、源八は兄弟の情に胸が一杯になった。

 その頃、米五郎は丁度賭場に来ていたお藤に目をつけ、強引に迫っている所であった。佐吉はこれを苦々しく見ながら、甲州代官の手が廻ったと、まことしやかに言った。驚いた米五郎は仕度もそこそこに、慌ただしく佐吉の家を出た。米五郎と知ったお藤は、源八に知らせるべく一足早く家を出た。宿はずれでバッタリと源八に会い、米五郎らが、出てすぐにやって来ると告げ、源八は米五郎に立向った。が、米五郎は逃れ去った。

 米五郎を追う源八らは彼が江戸、吉原へ向ったことを知った。やがて江戸吉原。遂に源八、徳次郎、佐吉の三人は米五郎を見つけ、彼の子分と大乱闘。急を聞いて兵三郎も駈けつけた。米五郎も今は観念した。その米五郎を見て源八は「花の吉原、血の雨降らすが本意じゃねえ」と刀を収め、親分又四郎を先に立て颯爽と引き揚げた。( 公開当時のパンフレットより )

あらすじ

 佐原の又四郎(黒川弥太郎)の子分の徳次(勝新太郎)は、恋人のお千枝(中村玉緒)が父のバクチのかたに沢井の米五郎(小堀明男)の子分につれて行かれるのを見て、奪い返して二人で逃げる。そのため旅芸人のお藤(小暮実千代)も迷惑しているところを救ったのが同じ又四郎の子分駒木野の源八(長谷川一夫)、お藤の話でおじが米五郎に殺されたことを知り、また親分の身代わりになって捕らわれていることがわかり、情ある役人妻木新三郎(市川雷蔵)の好意で、源八は米五郎を捜しまわり、彼が韮崎の佐吉(梅若正二)の家にやっかいになっていることを突きとめるが、討ちもらしてあとを追って江戸に出て、吉原で源八、徳次郎、佐吉、 又四郎がそろって、米五郎をひっ捕え、新三郎に引き渡す。

見どころ

 東映のオールスターキャストものの向うを張って、大映自慢の時代劇スター長谷川一夫、市川雷蔵、勝新太郎、梅若正二、黒川弥太郎の五人を全部そろえて出したところがこの作品のねらい。しかも案外ムリなく組み合わされているのは、原作者川口松太郎と脚色八尋不二の職人的うまさであろう。とくに、旅から旅とすれ違わせて最後に江戸の吉原というはなやかな場所で、勢ぞろいさせるなど心得たもの。

寸評

 五人のうち四人までいせいのよいやくざにふんしてあばれまわるマタ旅もので、事件から事件と展開して、テンポも早く、見せ場も多く、考えずに見ているとけっこう楽しめる娯楽篇。ただ、米五郎が源八のおじを殺した原因が不明だったり、又史郎が悪玉の米五郎の身代わりになる理由が薄弱だったりするのが少々気になるが、この種の作品には、そういう注文をつけるほうが間違っているのかもしれない。五人のスターたちのうちでは、勝新太郎の役が柄にあっているし『赤胴鈴之助』で売り出した梅若正二が、こんごを期待させる新鮮さを見せている。監督加戸敏、色彩、大型もの。( 西日本スポーツ01/24/58 )

( 日スポーツ・東京01/14/58 )

 

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