花太郎呪文

1958年2月5日(水)公開/1時間26分大映京都/白黒シネマスコープ

併映:「春高楼の花の宴」(衣笠貞之助/鶴田浩二・山本富士子)

製作 酒井箴
企画 財前定生
監督 安田公義
原作 角田喜久雄(東京タイムス・山梨時事・北陸新聞・北海タイムス・北陸夕刊・京都新聞・山陽新聞・フクニチ・徳島新聞・愛媛新聞・上毛新聞 連載)
脚本 高岩肇
撮影 相坂操一
美術 太田誠一
照明 伊藤貞一
録音 奥村雅弘
音楽 鈴木静一
助監督 小木谷好彦
スチール 松浦康雄
出演 林成年(金森源之丞)、近藤美恵子(お美年)、浦路洋子(榊原鶴世)、中村玉緒(お節)、河津清三郎(呉竜角)、香川良介(林久左衛門)、阿井美千子(お徳)、上田寛(仙太)、松本克平(勘兵衛)、清水元(千川万作)、千葉敏郎(近江三郎兵衛)、志摩靖彦(柴田新五右衛門)、寺島雄作(友三)、伊達三郎(志賀権太郎)、橘公子(市の瀬)、発表せず(花太郎)
惹句 『宙釣りにされた老婆の口からコトリと落ちた銀の鈴陰謀と秘宝の謎を追う二人花太郎

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◆ 解 説 ◆

 この映画は時代小説の人気作家角田喜久雄が好評連載中の新聞小説を安田公義が監督、市川雷蔵の主演で描く興趣溢れる怪奇と波乱の時代劇ですが、大映スコープの白黒版で製作されます。

 これは花太郎地蔵の伝説をめぐり、正邪二人の花太郎が入り乱れて登場、二百年間にいわたって眠り続ける金森家の財宝を追って、そのありかを秘める“遇花開”の三つの銀の鈴を争奪する波乱万丈の事件を、妖気漂うフンイキの中に展開するスリルとサスペンスの物語です。

 配役は金森家三万八千石の嫡子に生れながら、その出生も知らず浪人姿に身をやつす謎の快剣士加賀美三四郎に市川雷蔵、またチャキチャキの女目明し、お美年に近藤美恵子が出演『あばれ鳶』『編笠権八』以来一年目の顔合せをしますが、さらに武家娘榊原鶴世には浦路洋子、舟宿の娘に中村玉緒、腰元スパイにお徳に阿井美千子、三四郎の弟になる金森源之丞に林成年、また謎の怪盗呉竜角に河津清三郎が扮するなど豪華多彩のキャストです。

 そのスタッフは、製作酒井箴、企画財前定生、シナリオは前記角田喜久雄の原作を高岩肇が完全脚色、監督安田公義、撮影相坂操一と組んで野心のメガホンをとるものです。(プレスシートNO.726より)

 

快剣士加賀美三四郎(三万八千石 金森家の嫡子だがその出生を知らず、浪人姿で活躍)・・・市川雷蔵

女目明しお美年(目明し花屋勘兵衛の娘。謎の鈴と怪盗花太郎の正体を追う)・・・・近藤美恵子

 快剣士加賀美三四郎の前に現われたのは人を斬って“花”と書かれたはり紙を残す正体不明の怪盗花太郎(配役は秘密)。二百年の間眠り続ける財宝のありかを秘めた三つの銀の鈴−そして怪しい唐人飴屋(河津清三郎さん)とすべて謎、謎、謎の連続。いうなればスリラー時代劇です。浦路洋子、中村玉緒、阿井三千子、林成年さんなどが共演。(スコープ)

「素性や身分を確かめることなど忘れて家へもどって下さい・・・」
三四郎を慕う旗本榊原家の娘 鶴世(浦路洋子さん左)の言葉に
お美年(近藤美恵子さん右)はハッと気づいたことがある・・・

 三万八千石の金森家には二百年間にわたって眠り続ける財宝があったが、そのありかを秘める三つの銀の鈴をひそかに横領しようと企む用人一味。

 一方、深夜の江戸で人を斬っては“花”のはり紙を残して消えていく花太郎と名のる怪盗を追う目明しの娘お美年は、銀の鈴の争奪戦にまきこまれ、危ういところを謎の快剣士加賀美三四郎に救われる。その三四郎こそ金森家の嫡子であったが、彼はその出生も知らず、浪人姿に身をやつしていたのである。

 謎の怪盗の出現、そして財宝のありかを示す銀の鈴の争奪戦、波乱万丈の事件を描くスリルとサスペンスにみちた時代劇映画。(平凡58年3月号より)

(写真はイサマシイ立ち姿の近藤美恵子)

 大映の純情娘近藤美恵子が、これはなんとしたことか、片手に十手、片手には手裏剣をかまえ、ぐっと勇ましくもりりしい立ち姿。

 大映京都でクランクたけなわの、白黒スコープ『花太郎呪文』(監督安田公義)に出演中の一コマだが、日ごろのおとなしさが、かえって一種のお色気さえただよわせ、なかなか魅力的な目明しぶりとか。

 「東京でのお仕事はいかにも純情そのものといった役柄が多いのに、京都に来るとこの有様。それに年の暮から梅若さんと『遊侠五人男』、勝さんと『おけさ鴉』そして市川さんとこの『花太郎呪文』と三本たてつづけなので、もう東京がなつかしくって・・・」と、いい加減ホーム・シックにかかったような表情。

 しかし、京都側の女優さんたちは「ときおり京都にきて雷蔵さんや、勝新太郎さん、梅若さんなど、いいところを、なで切りされたんじゃタマラナイワ」となかばうらやましそうな顔でひそひそ。(西日本スポーツ01/22/58より)

 

 

◆ ものがたり ◆

 江戸に、人を斬っては“花”のはり紙を残して消える、遊び人風の怪盗が出没していた。みずから花太郎と名乗った。“花太郎地蔵”の境内の石垣に、地下道を発見した目明し花屋勘兵衛の娘お美年は、その奥で天井から逆さに吊るされた老婆から、銀の小鈴を“花太郎”に渡してくれと頼まれた。その時二人の黒覆面から襲われたが、三四郎という男が現れ、救ってくれた。

 父の勘兵衛の話によると、二百年前、関東の兇盗“花太郎”を土地の豪族江戸小源太が滅し、この地蔵を建立したのだが・・・、一方、三万八千石金森家には、始祖江戸小源太の遺言で、三個の銀の小鈴と家督とを嫡男の花太郎と名づけられたものが継ぐというならわしがあった。ところが、若殿金森源之丞の手許には一箇しか鈴がなく、名前も花太郎ではなかった。用人柴田の言によると、“花太郎”という彼の兄は、その乳母と共に二十数年前行方不明になっていた。

 源之丞に花太郎のことから手を引けと命ぜられた勘兵衛は、その帰途何者かに連れ去られた。それは柴田一味の仕業で、美年の持つ鈴を狙っているのだ。それというのも、三つの鈴には三百年の財宝の秘密が隠されているからだった。

 一味は更に美年を誘い出し、家に火をかけたが、三四郎の出現で、鈴と美年は無事だった。彼が自分の宿“舟友"で事件の次第を美年から聞いていると、金森家の腰元お徳が現れ、彼女の伯父唐人飴屋の呉竜角が勘兵衛探しの糸口を握っていると告げた。

 源之丞が舟友へ遊びにやって来て、花太郎の射かけた矢から救ってくれた美年に、屋敷へ来るよう頼んだ。一方、三四郎は旗本榊原家から家へ帰ってくれと言われていた。捨て子の三四郎は、榊原家に拾われ鶴世の兄として育ったのだが、自分の素性を知ろうと出奔したのだった。

 鶴世は父の病気と源之丞の彼女への婚約申込を知らせてきた。お美年は「鈴を持ったまま金森家の屋敷へ行ったから」と言い残してして姿を消した。三四郎は呉竜角の知らせで、花太郎地蔵の地下で勘兵衛を助けだし柴田一味を倒した後、鈴と一通の書状を手に入れた。そして、彼は自分が金森家の嫡男花太郎なのを知った。

 その頃、金森家に柴田の手引で花太郎が押し入り、鈴を手に入れた上に、美年をも連れ去り、邪魔な柴田を斬り捨てた。三四郎は自分の鈴を渡して、お美年を救った。

 “花太郎”の正体は、二百年前の兇盗“花太郎”直系の子孫呉竜角であり、お徳は彼の情婦だったのだ。彼女は呉竜角に殺されてしまい、呉竜角は三個の鈴を持ち、金森家へ乗りこんだ。自分こそが正当な跡目であり、相続をしようと計ったのだ。ところが、そこに三四郎現われ、“花太郎”の呉竜角を斬り倒した。三個の鈴こそは地下道の財宝の箱を開く鍵だったのだ。

 こうして、三四郎は源之丞に金森家の跡目をゆずり、鶴世と共に榊原家へ戻って行った。

 

                                 花太郎呪文                     滝沢 一

 又しても角田喜久雄の宝探しモノ。見るのも書くのも気が変らなくていけない。原作が各地方の有力紙に連載中であるという効用以外にどれだけの企画性があるのだろうか。しかも一月と経たない間に『月姫系図』とこの作品と同じ会社で、同じ原作者の全く同趣向の作品をたてつづけに映画化するのは何とも能のない話である。

 それでも原作には奇怪なふん囲気やあぶな絵的なエロシーンを設定して読者の好奇心を釣ってゆく職人芸があるが、映画ではそれらの不健康な(?)枝葉の部分をばっさばっさとかりとってしまってただ一通りの筋を通しているだけである。それだけに一層スカみたいなものになっている。それでいて大名の腰元がこんな格好では人目に立つからと断って姿を消したかと思うと、とたん洗い髪なんかの意気姿で現れるのである。こんな余計な気苦労をするのが一般に大映時代劇の欠点である。腰元姿で通してしまっていいのである。

 安田公義の演出は割合しっかりしている。風の吹く芦っ原のなかで主人公と唐人アメ屋の呉竜角と名乗る怪人物とが対決するシーンにはワイド画面の魅力が活かされていた。

興行価値 時代映画の特色はやはり宣伝し易いような内容とキャストであろう。この映画にはそれがあるかどうか。(キネマ旬報より)

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 子育て地蔵「花太郎さま」が夜泣きするという奇妙なうわさと、「花」の字のはり紙をされた家が次々と強盗に襲われるという奇怪な事件の裏にかくされた古文書「ほこら明神縁起」が秘めた花夜叉さまの秘宝にまつわるナゾとは……。

 

詳細は春陽文庫書店を参照。

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