時代性格を浮彫り

 雷蔵が好演 『若き日の信長』

 原作は大仏次郎が菊五郎劇団のために書いた舞台劇で、これまでに数回映画化されている。尾張の青年城主信長(市川雷蔵)は剽悍な気性から山野をとびまわり、人たちからバカ殿扱いされている。こどもと戦ごっこをして遊ぶ反面、敵の間者の裏をかいて、同士討ちさせるほど深慮遠謀の持主だが、お守り役のじいや(小沢栄太郎)にも、その才能が見抜けない。じいやは死をもって主君をいさめるが、それを知った信長は「なぜ俺を捨てて死んだ」と号泣する。脚色八尋不二、監督森一生。

 一種の性格劇である。骨肉が争う戦国の世に、自分を支えるものは自分でしかない信長の孤独が、雷蔵の熱演でひとつの時代性格として浮びあがる。さきに東映でやった同じ作品は、活劇的な動きを主としていたが、これは舞台劇調。じいやの遺骸を前にした長丁場など雷蔵としては精一杯の努力といえよう。だが、全体にもう一歩物足りないのは脚本や演出に無駄が多く、信長の強烈な個性の面白さが、うすめられているからだろう。共演の金田一敦子はまずい。準佳作。ワイド1時間35分。大映(人見嘉久彦)

03/21/59付の新聞より