続次郎長富士

1960年6月1日(水)公開/1時間48分大映京都/カラーシネマスコープ

併映:「男は騙される」(島耕二/叶順子・三田村元)

製作 三浦信夫
企画 浅井昭三郎
監督 森一生
脚本 八尋不二
撮影 牧田行正
美術 上里義三
照明 古谷賢次
録音 海原幸夫
音楽 小川寛興
助監督 井上昭
スチール 藤岡輝夫
出演 長谷川一夫(清水次郎長)、勝新太郎(森の石松)、本郷功次郎(小松村七五郎)、根上淳(無明の仙八)、中村玉緒(猩々のお亀)、阿井美千子(お蝶)、近藤美恵子(七五郎姉おゆき)、小林勝彦(利三郎)、中村豊(枡川仙右ヱ門)、月田昌也(役者の政)、北原義郎(大政)、鶴見丈二(小政)、林成年(鬼吉)、舟木洋一(半五郎)、石黒達也(平親王勇蔵)、美川純子(お花)、加茂良子(おかつ)、毛利郁子(おぎん)、佐々十郎(幸助)、楠トシエ(お米)、堺駿二(東竜)
惹句 『富士川の決戦から石松の弔い合戦まで大映スタア総動員で次郎長伝の名場面を総まくり』『数千の長ドスを蹴散らして、富士に競う東海道の男伊達壮絶無比次郎長一家の殴り込み』『さあ斬りまくるぞ暴れるぞ年に一度の清水一家の腕の見せ場だ

 

◆ 解 説 ◆

 『大江山酒天童子』の八尋不二の脚本を『濡れ髪喧嘩旅』の森一生が監督した娯楽時代劇。『美人蜘蛛』の牧田行正が撮影した。

☆昨年度初夏に大ヒットを放った大映のオールスター股旅大作『次郎長富士』の記憶は、まだファンの脳裡にも新しいものがありますが、この好評に応えて再び製作されるその続篇が、今回の『続次郎長富士』で、名称は続となっていても、この一篇で完全な独立した物語であることはいうまでもありません。

☆前作では、秋葉の火祭りから富士川の決戦までの有名なエピソードを網羅しましたが、今度はその富士川の決戦の直後、いよいよ名実ともに海道一の親分となった次郎長に、再び宿敵黒駒一派の残党が、兄弟分の仇討とばかり、反次郎長派を糾合して、だんだんと巨大な陰謀の手をひろげて、罠におとしいれようとする。その犠牲となって前作以来の人気者森の石松も、例の閻魔堂で壮烈な最期を遂げ、ついに石松の弔い合戦に立つ次郎長が、黒竜屋、平親王という二大勢力の連合軍を、苦戦の末に見事打破るまでの物語です。

☆その間にあって、本篇に新たに登場する、石松の弟分ともいうべき小松村の七五郎の全篇にわたる活躍、相もかわらぬお人好しで腕っぷしの強い石松、この二人の友情もユーモアたっぷりに描かれ、篇中最初のヤマ場庵原川の決戦を未然に防ぐ青年代官山上藤一郎の颯爽ぶりは前作になかった新しい興味をそそるものです。

☆配役は、前述の通り大映自慢のオールスター陣で、極わめ付き長谷川一夫の次郎長、痛快市川雷蔵の山上藤一郎、颯爽勝新太郎の十八番森の石松、そして新人王本郷功次郎の小松村七五郎らをはじめとして、二十八人衆には、北原義郎の大政、鶴見丈ニの小政、林成年の鬼吉、舟木洋一の半五郎、中村豊の仙右ヱ門、井沢一郎の豚松ら一騎当千の武者揃いに、清水元の津向の文吉、反次郎長陣営では根上淳の盲目の剣客仙八、小林勝彦の利三郎、石黒達也の平親王、香川良介の黒竜屋、見明凡太郎の新助、更に都鳥兄弟に杉山昌三九、千葉俊郎らの芸達者が並び、女優陣には中村玉緒の娘道中師お亀、近藤美恵子の七五郎の姉おゆき、阿井美千子のお蝶、更に毛利郁子、美川純子、加茂良子らで色どりを加え、月田昌也のチンピラやくざ政、堺駿二の人相見の旅烏、佐々十郎、楠トシエの心中者コンビらは、この映画に一段と明るい笑いを加えることが期待されます。

☆スタッフは前作と同じく、脚本八尋不二、監督森一生のコンビが、牧田行正の駆使するキャメラワークによって、面白くてスケールの雄大な股旅映画の金字塔を再び樹立することを狙っており、録音海原幸夫、音楽小川寛興、美術上里義三、照明古谷賢次らのメインスタッフも、すべてをこの一点に集中していることは、言をまちません。(大映京都作品案内 618より)

 

 次郎長の女房お蝶(阿井美千子)におこられて、ベソをかいた本郷功次郎(小松村の七五郎)が廊下に座っている。そこへ次の間からヌキ足サシ足、勝新太郎(森の石松)と中村豊(増川の仙右衛門)がやって来る。その勝がおいでおいでする。本郷が、横目でお蝶を示し、イヤイヤをする。勝が口をパクパクあけて手招きする。本郷が後ろに手をまわしたり顔をしかめたり盛んにダメダメをする。だが四んばいになった勝は、のそのそ這って来て本郷の背中を突き、招き猫のように手先でコイコイをする。その時お蝶が「何してんだい、そこで」と針仕事をしながら声をかける。

 それ見ろと、驚いて大きな口をあんぐりあけて止める本郷の手が、勝の鼻の先をひっかく。ジリジリして来た勝は、だんだん本気になって頭に血がのぼる。口をトガらせ、もともと片目だからその顔はまったくタコである。とうとうカァ助になって、グイと本郷の肩をひっつかんで「やい」と声を出してしまい、本郷がすかしたので前のめりになる。そこで森一生監督OKの声がかかる。それを待っていたかのように本郷がふき出す。このパントマイム、勝の名石松ぶりにスタッフ一同もお笑いである。

 これは、昨年六月に公開した『次郎長富士』の続篇のオールスター作品で、本郷功次郎はこれで時代劇とは当分さよならになり、今後は東京の現代劇で活躍することになる。この森組のカット、すこぶる快調な撮影ぶりで、今のが十五カット目、一日平均二十カットは軽くあげるそうだ。その日は、夜の九時まで頑張ると云っていた。                         (時代映画60年5月号「ある日のセットより」より)

 

◆ 梗 概 ◆ 

 黒駒の勝蔵を倒して引き上げてきた次郎長に、新しい押しかけ子分七五郎が待っていた。七五郎は、石松も顔まけの短気な男だ。石松と七五郎は、桝川の仙右衛門の仇討ちを買って出、八角一家を斬りまくった。

 次郎長の命で、三人は旅に出た。七五郎は旧友のお役者政に会い、政の女出入りの傍杖をくった。反次郎長派の親分平親王の勇蔵は、政のまちがいを利用し、次郎長陣営の仲間割れを図った。勇蔵の背後には、黒駒の弟分黒竜屋亀吉や、軍師格の新助らが糸を引いていた。石松の報告で彼らの奸計を知った次郎長は、二十八人衆を連れて勇蔵の家へ乗りこんだ。大喧嘩が予想されたが、青年代官山上藤一郎の裁きで治まった。

 次郎長と別れた石松は、三河の為五郎から次郎長へ二百両の金を預かって帰途についた。が、その二百両を道で会った都鳥の吉兵衛に貸してしまった。折りから、都鳥にワラジを脱いだ新助たちが、吉兵衛をそそのかし石松をだまし討ちにかけた。石松は手傷を負い、一度七五郎の家に逃げ込んだが、また躍り出して殺された。勇蔵が都鳥兄弟をかくまった。吉兵衛を追って来た小政も生捕りにされるハメになった。勇蔵は小政を生きながら棺桶へ入れて清水へ送り、石松の死骸を引き取りたいなら次郎長一人で来いと挑戦した。

 黒竜屋、勇蔵の連合軍の真只中へ、同勢わずか四人で次郎長が進んだ。同じ頃、清水で留守を守る大政、七五郎らは、かって七五郎に救われたことのある幸助から勇蔵の奸計を聞いた。みんな親分と一緒に死のうと駆け出した。死闘。やがて、勝ちどきは清水方にあがった。( キネマ旬報より )

続次郎長富士

小倉 真美

 黒駒の勝蔵を富士川の決戦で倒した次郎長(長谷川一夫)が、二十八人衆を伴って清水へ引揚げるところから始まり、黒駒の兄弟分平親王と黒竜屋が次郎長打倒を画策して、その陣営の弱体化を計り、森の石松(勝新太郎)が最期をとげ、敵の連合軍を次郎長が打破るまでのいきさつである。

 この講談ダネの中に、青年代官山上藤一郎(市川雷蔵)を登場させ、二大勢力の衝突を避けさせる挿話が入るが、才能も剣道も達人らしい彼がいつの間にか反次郎長側のために左遷させられているのは、勝手すぎる脚本だ。

 最後の挑戦に応じて、次郎長がのこのこ出かけるのも無茶な話で、政治的手腕にもすぐれていたと伝えられる人柄など全然描かれず、ラスト・シーンでヤクザの勝利に悲哀を感じたところで仕方がなく、新解釈を期待すると失望する。

 森の石松は大きな比重で活躍する。閻魔堂での凄惨な乱闘には特に演出も力を注ぎ、近頃の時代物では珍しく、残酷な死闘が展開される。東映のスポーツ的なチャンバラを見慣れた今日の観客にはいささかショックであろう。勝新太郎は力演といえるとしても、全体のバランスを崩した構成である。黒竜屋側にいる盲目の剣客(根上淳)がニヒルな殺し屋として出場、戦前の時代物によく見られた人物の再現にすぎないが、ちょっと目立ったのは根上が扮したせいであろう。興行価値:昨年ヒットした『次郎長富士』の続篇だが、内容に新味がなく、封切は凡調だった。( キネマ旬報より )

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