女と三悪人

1962年1月3日公開/1時間42分大映京都/カラーシネマスコープ

併映:「家庭の事情」(吉村公三郎若尾文子・叶順子)

監督 井上梅次
脚本 井上梅次
撮影 今井ひろし
美術 西岡善信
照明 古谷賢次
録音 奥村雅弘
音楽 鏑木創
助監督 渡辺実
スチール 藤岡輝夫
出演 山本富士子(瀬川喜久之助)、勝新太郎(竜運和尚)、大木実(鶴木勘十郎)、中村玉緒(お光)、小林勝彦(生首の銀次)、浦路洋子(照奈)、三島雅夫(但馬屋徳右ヱ門)、島田竜三(楽之助)、中村豊(からす金の弥三)、立原博(盲目の柳全)、南条新太郎(奉行)、嵐三右ヱ門(松右エ門)
惹句 『わるい事なら仲よくやるが、惚れた女はゆずれねえ天下御免の三悪人』『この恋だけは命にかけても譲れねぇお役者やくざ、人斬り浪人、いかさま坊主と、つむじまがりの三悪人』『ゾっこん惚れても手が出ない、泥棒横町の生き弁天に命をかけた、つむじまがりの三悪人』『遊び人、人斬り浪人、いかさま坊主、いずれおとらぬつむじ曲りの三人男が、命を張った女とは・・・』
山本富士子  瀬川喜久之助 『男心をしびれさす艶麗匂うばかりの女役者
市川雷蔵  芳之助 『意地と度胸のず太さで恋をさらうか風来坊
勝新太郎  竜運和尚 『泥棒横町にかくれもない生臭坊主の大親分
大木実  鶴木勘十郎 『瞳も剣も冷たく冴えて何を狙うか無宿の殺し屋
中村玉緒  お光 『初めて知った恋に悶える横町酒屋の看板娘

       ▼ かいせつ ▼

 

 

 

 井上梅次監督が自作のオリジナルシナリオ『女と三悪人』で、初の時代劇を大映京都でとることになった。主演は山本富士子、市川雷蔵、勝新太郎、大木実が決定。16日から撮影を開始する予定だが、はじめての時代劇に取り組む井上監督は、意欲的なまなざしで次のように語っている。

 「このストーリーは新東宝時代から持ち続けていたものなんですよ。わたしは幕末経済史に興味をもっていたので、新東宝のころ三村伸太郎君と、“泥坊横丁の人々”という脚本をつくったのが骨子です。もっとも、こんどはわたしのオリジナルで、内容も変わりましたが・・・。そのころ、ちょうどマルセル・カルネの『天井桟敷の人々』をみたのも大きな原因となっています」

 大映との契約の最初の条件が南条範夫の『第三の影武者』という時代物であっただけに、ようやく念願の時代劇に取り組むことになったわけだ。

 「天保、嘉永といえば、江戸文化はタイハイの極に達していたころです。尊王攘夷の声も世上に高く、江戸庶民の間には、時代の目標を失った虚無感のみが強く、おまけにあい次ぐ貨幣改悪によって、通貨制度は混乱し、悪性インフレの暗い影がすべての江戸市民の上におおいかぶさっていた。こういう世相のもとに、場所を江戸の盛り場、両国かいわいにもとめ、ニセ金作り、前科者、ニヒルな浪人という三悪人と、この泥沼の中にもロマンをもとめて咲く、一つの花、女カブキ役者との恋のサヤ当てを追いながら、虚無の人間像を一つの江戸市井風俗として描いてゆくつもりです」と、とうとうと語る。

 美人のカブキ役者には山本富士子、前科者に市川雷蔵、ニセ金作りの坊主に勝新太郎、ニヒルな浪人に大木実、それに中村玉緒、小林勝彦、島田竜三、浦路洋子など正月作品にふさわしいにぎやかな顔ぶれも決まった。

 「わたしは、この作品を正統時代劇としてまとめる自信がある。やはり時代劇の第一作目は、約束ごとの少ない作品と考えていたが、約束ごとはスタッフの協力を得ればやれるし、この作品は現代に通ずるものがたくさんあるので、テクニックもあまり必要じゃないと考えています。とにかく自分なりの時代劇をつくってみせるつもりです。この映画はやはり山本、雷蔵、勝君の三人が出演しなければできないものですね。一人でも欠けたら、わたしは延ばすつもりでした。それに大木君は『妻あり友ありて』で一緒でしたが、彼はまだまだ捨てるには惜しい人です。これからもどしどし撮りますよ。来年は『第三の影武者』に取り組みますし、そのほかにもいろいろ考えているんです。これからは『ナバロンの要塞』のように、事件の連続でゾクゾクさせるような映画でなければダメだと思うんです。そういう作品をどしどし撮ってゆきます」(サンスポ・大阪版11/16/61より)

 

 日本映画のモダニズム派を代表するような井上梅次監督が、はじめて時代劇のメガホンを握った話題作。十年間もあたためつづけて来た題材をみずから書きおろしての映画化というのも意欲十分。

 その内容は江戸末期“泥棒横町”とよばれる両国の盛り場に集まるさまざまな人間を追いながら、美しい一人の女役者と彼女をとりまく兇状持の流れ者、ニセ金作りの生臭坊主、ニヒルな素浪人など、風変わりな“三悪人”たちと女役者の恋模様を庶民のドラマとして描こうというもの。

 かつてのフランス映画「天井桟敷の人々」をしのばせる興味ある人物設定、二万平方メートルにおよぶ泥棒横町の大オープンセットなど話題はつきない。

 出演者は女役者に山本富士子、流れ者に市川雷蔵、生臭坊主に勝新太郎が扮しているほか、ニヒルな素浪人に松竹の大木実がその個性を買われての初の大映出演、また中村玉緒がのみ屋の看板娘役で出演している。(「キネマ旬報」より)

▽・・・1962年の年頭を飾る大映の正月作品『女と三悪人』(総天然色)は、山本富士子、市川雷蔵、勝新太郎、中村玉緒に大映初出演の大木実を加えた“夢の五大スター”が絢爛花と咲き競う豪華な娯楽超大作であり時代劇初の井上梅次監督が、十年間も温め続けてきたみずからのシナリオにより野心のメガホンをとる全映画界注目の話題の一作でもあります。

▽・・・内容は江戸末期、“泥棒横町”と呼ばれる両国の盛り場に集まるさまざまな人間を追いながら美しい一人の女役者(山本)と彼女を取巻く兇状持ちの流れ者(雷蔵)、ニセ金作りの生臭坊主(勝)、ニヒルな素浪人(大木)など風変りな“三悪人”たちとの恋模様を庶民のドラマとして、ロマンの香り高く描こうというもので、かってのフランスの名作“天井桟敷の人々”の楽しさを思い起こせる興味ある人物設定や、二万平方メートル(六千坪)に及ぶ泥棒横町の大オープンセットの撮影もこの映画の大きな話題の一つでありますが、とくにこれまでの顔見世的なオールスター映画と異り、あの役この役が最高の適役でがっちり固められ、しかも波乱に富んだ事件のかずかずが、息もつかせぬ面白さで次々に迫って来る文字通り興趣溢れる異色の時代劇巨篇でもあります。

▽・・・さて問題のキャストは、前述の山本富士子、市川雷蔵、勝新太郎、大木実、中村玉緒の五大スターが夢の顔合わせをみせるほか小林勝彦、浦路洋子、中村豊、島田竜三らの大映青春スター群に加えて、三島雅夫、潮万太郎、立原博、小林重四郎、寺島雄作、嵐三右ヱ門、近江輝子、南条新太郎らのベテラン演技者がずらりと揃って多彩な豪華配役陣を誇っています。

▽・・・またスタッフは、企画を加藤裕康、脚本は初の時代劇に意欲を燃やす鬼才井上梅次監督みずから執筆、名手今井ひろしの流麗なカメラを得て、絢爛たる画面を展開するほか、録音奥村雅弘、音楽鏑木創、美術西岡善信、証明古谷賢次といったこの大作をものにするにふさわしい粒選りの精鋭ですっかり製作陣を固めています。(公開当時のプレスシートより)

  

 

 

 

 山本富士子、市川雷蔵、勝新太郎、大木実、主演の大映正月映画『女と三悪人』は井上梅次監督初の本格的時代劇として話題になっている。

 この映画は井上監督自作のシナリオからの映画化で、同監督が十年来あたためつづけてきた題材だそうだ。フランス映画『天井桟敷の人々』を見て感動したのが、このシナリオを書く動機だということだ。

 「別にむずかしい映画をつくろうというのではないが、『天井桟敷の人々』を見た人には、ジャン・ルイ・バローが雷蔵さんで、アルレッティが山本さんだと思ってもらえばいい。時代劇はこんどがはじめてですが、準備は別としてやり始めるとやはり同じようなものです。内容は明日を夢見る女と、今日のことしか考えない男たちが恋に陥ってどう変わっていくか、幕末の乱世を背景に庶民のドラマとして愉快に描いてみたいのですが、お正月映画でもあり、できるだけハデにケンラン豪華な感じを押し出していくつもりです」と井上監督大いに意欲的なところをみせている。

 江戸末期、ドロボウ横丁と呼ばれた両国の盛り場に集まるさまざまな人物の中から、ここを本拠とするカブキ一座の女座頭(山本)と、彼女をめぐる役者くずれの兇状持ち(雷蔵)、ニセ金づくりのナマグサ坊主(勝)、ニヒルな浪人者(大木)の三悪人の恋模様を三人三様に描き分けようとするもの。セット撮影は主としてドロボウ横丁が背景になるが、大映京都撮影所内二万平方メートル近いオープン敷地にその全景を組み、千人余のエキストラを動員して通行人に使うそうだ。(毎日新聞12/13/61より)

▼ ものがたり ▼

 江戸も末期。泥棒横町とよばれるここ両国の盛り場は、ありとあらゆる雑多な人たちでひしめき合っていた。

 この界隈を一座の本拠とする美しい女座頭の瀬川喜久之助は、いわば泥沼に咲いた一輪の花であり、だれ一人として彼女に惚れぬものはないほど魅力に溢れたいい女であった。この盛り場で大道芸人の元締めとしてにらみをきかす生臭坊主の竜運和尚や、立派なウデを持ちながら、一座のお囃子で笛吹きをつとめるひねくれ者の浪人鶴木勘十郎も彼女にぞっこん参っている男たちの一人であった。

 こんなところへ、スリの生首の銀次の共犯者に間違われ、目明しに追われて飛び込んできた旅の男があった。この男は芳之助という役者くずれの流れ者で惚れた女のいざこざで、誤って人を殺したことから目明しをこわがっていたのだが、鶴木のとっさの計いで“弁天小僧”の一幕を立派にこなし追手の目をごまかすことができた。一座では喜久之助師匠に邪恋を抱く楽之助がいやがらせのために幕をつとめようとしないので、早速彼に代役を頼もうとしたが、すでに芳之助の姿はどこにも見当らなかった。

 しかし、居酒屋“たる平”へふらりとあらわれた芳之助は、そこで偶然にも鶴木たちに出会い、彼の紹介で初めて喜久之助に引き合わされたが、その美しさに思わず見惚れてしまった。彼女は百両という一座の借金を肩代わりしてくれた但馬屋の主人徳右衛門に金で自由にされている身であり、今夜も彼のもとへ行かなければならないことを、道々送ってくれた芳之助に告げるのだが、磁石のように引きつけられたまま、お互いに一目惚れしてしまった二人は、折からの雨を橋の下にさけながら長時間楽しく語り合うのだった。

 鶴木に好意を感じていた喜久之助にとって芳之助の出現はも早それ以上の存在となった。この二人の早急な接近に気付き、恋のためには芳之助を斬るとまでいっていた鶴木もまず彼女を但馬屋の金しばりから解き放つためには、イカサマ賭博で荒稼ぎしようという芳之助の相談にのる結果となった。これは胴元の竜運和尚の見破るところとなり失敗したが、芳之助は師匠に横恋慕していた楽之助に一騎打ちの挑戦うけ、誤ってこれを殺してしまった。しかしこの二人の勝負に百両の金をかけて竜運に勝った鶴木は、この金を受け取ると、“芳之助が命をかけた金で自由の身になってくれ、そして好きな男と好きなことをして生きるんだ”と喜久之助に差し出すのだった。

 だが、あやまちとはいえ楽之助を刺した明日のない芳之助には、喜久之助の甘い甘い言葉も所詮無縁のものだった。その夜、喜久之助の手をふり切った彼は、たる平の看板娘のお光を訪ねたが、芳之助が大好きで、喜久之助から彼の心を取り返す機会を狙っていたお光は、喜んで彼に抱かれるのだった。

 喜久之助が、喜び勇んで但馬屋へ返済した金は、実は竜運が寺で秘に作っていたニセ金であり、このことで芳之助は奉行所に引き立てられたが、鶴木の芳之助に対する友情に動かされた竜運がニセ金作りを自首して出たため、引きかえに彼は釈放されて喜久之助と再び相擁した。しかし程なく、芳之助に二度目の呼び出しがかかった。嫉妬に燃えるお光が楽之助殺しの犯人が芳之助であることを訴え出たためである。芳之助を得て、ようやく幸せが廻ってきたと思っていた喜久之助も、も早これまでとすべてを観念し、彼に最後の舞台を踏ませるのだと目明しを騙して彼を奈落から逃がした。鶴木は米の買占めで暴利をむさぼっていた但馬屋を一太刀のもとに斬りすて、また竜運和尚は彼の手下どもの手により破牢し自由の体となった。期せずして三人は、はるか両国の夜空を焦す火事を仰ぎながら淋しい河原でおち合うことができたが、竜運は江戸にもどってもう一度ニセ金作りに精を出して世の中をぶちこわしてやるといい、鶴木は彼女が芳之助のあとを追って江戸を出るのを見守ってやろうとつぶやいて、旅にたつ芳之助をいつまでも見送るのだった。(公開当時のプレスシートより)

    

 詳細は、シリーズ映画、その他のシリーズ『歌舞伎の世界』参照

 

 

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