1965年10月16日(土)公開/1時間23分大映京都/カラーシネマスコープ

併映:「掏摸」(弓削太郎/本郷功次郎・高田美和)

企画 加賀四郎
監督 三隅研次
原作 柴田錬三郎「週刊読売連載」
脚本 星川清司
撮影 牧浦地志
美術 下石坂成典
照明 山下礼二郎
録音 大谷巌
音楽 鏑木創
助監督 友枝稔議
スチール 三浦康寛
出演 姿美千子(お咲)、佐藤慶(神部菊馬)、五味竜太郎(虚無僧)、陸五郎(友蔵)、工藤堅太郎(朝蔵)、内田朝雄(醍醐弥一郎)、戸浦六宏(藩主正信)、伊達三郎(戸田信吾)、島田竜三(八田肝介)、戸田皓久(田所外記)、杉山昌三九(池永丹左衛門)、玉置一恵(津崎太一右衛門)、浜田雄史(平田万之助)、木村玄(棚倉武)、小村雪子(キン)
惹句 『忍者よりするどく剣豪よりも強い信じられない凄い奴』『人か、鬼か疾駆する馬上の敵を一瞬に斬る剣の冴え』『疾走する馬上の敵を走って斬る風の如し天の如し

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■ 作品解説 ■

 この作品は、柴田錬三郎の同名小説の映画化で久しぶりにシリーズ作品から離れた市川雷蔵が、新鮮な題材を得て、颯爽と、意欲的にとりくむ異色時代劇で、初秋のスクリーンをかざる。これまでの“剣豪もの”とは違って、身分の低い無足の青年の、剣に天才の業をもち、<人か、鬼か>と目を見張らせる、すさまじい剣に生きる姿が、描かれていく。

 人斬り斑平と異名をとる斑平には、出生に異常な秘密があった。しかし、彼には、誰にもない天才があった。花造りの名人で、四季の草花を見事に咲かせた。それだけなら、平凡に一生を送ったであろうが、馬よりも速く駈ける健脚と習わずして達人以上の抜刀術の腕を持っていた。折りしも、彼の藩主が病気で、お家改易を藩は幕府から狙われていた。斑平は、小姓頭の神部菊馬の策略に命じられるままに、忍び込んでくる公儀隠密を次ぎ次ぎと斬った。だが、藩論が保守革新の二つに割れ、若侍たちが新藩主を迎えるため藩を脱走して、幕府に直訴する計画を実行した。斑平は、神部の命ずるまま、脱走する同藩の若侍たちを斬った。十一人も斬った。やがて、新藩主に変わり、遺族たち三十人に仇討を迫られた斑平は、山麓一面の花畑で、白刃に身をふりしぼって斬りまくった。・・・意外な天稟をもつ特異な男の宿命と反抗を、青年のバイタリテイとファンタジックなロマンで鮮烈に描く新感覚の娯楽時代劇として製作される。

 主演の市川雷蔵、監督の三隅研次、脚本の星川清司のトリオは、第一作の『新選組始末記』以来、眠狂四郎シリーズなどでピタリ呼吸の合った仕事ぶりを見せているが、今度の新素材でも充分プランを練り上げ、完璧な作品を目ざして意欲を燃やしている。そのほか、主な出演者には、姿美千子、佐藤慶、内田朝雄、工藤堅太郎、睦五郎、五味龍太郎、伊達三郎らのベテラン陣が適役を得て登場する。(公開当時のプレスシートより)

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★★ 雷蔵における二つの研究・剣鬼 ★★

 「この映画、役づくりはランニングの研究から始まる」と笑う雷蔵。人間と犬との間に生れた子供、という出生の秘密を持つ斑平は、馬よりも速く走る能力の持ち主。スピードの方はカメラでごまかせても、問題はそのフォームだ。そこで、わざわざ大学の短距離選手を招いてスタッフとともに研究したものの、いくらその通りにやってもカッコが悪い。「それもそのはず、彼らはスパイクはいてパンツ姿なのに、僕の方はワラジにハカマで、おまけに刀まで差している。しかし、お陰で基本はわかりましたから、それにいくらか修正を加えてやることにしました」

 第二の研究は、斑平が幕府の隠密から教わる居合い斬りについて。これは、戦国時代から伝わるという「英信流」の師範を招いてコーチを受けたが、抜刀の型は一つだし、それも、そのまま絵になるとあって、問題ないように見えたものの大映には「座頭市」というこの方のチャンピオン(?)もいること。口にこそ出さないが、雷蔵ならではの新味を出そうとかえって一層の研究にはげんでいるようだ。

 

■ 物 語 ■

 世に知られず、剣に天稟をもちながら、その業ゆえに、生命を捨てた者の、数は知れない。すさまじい、人間の物語である。

 信州、一万三千石、海野式部少輔正信の藩中に斑平(はんぺい)という無足の若者がいた。無足とは、極下級者で、具足を持たないため、そう呼ばれたのであろう。が、斑平は、中老を母にしながら異常な出生の因縁のため、産まれると無足長屋の老爺にあずけられ、冷笑蔑視の中に、育った・・・藩主正信の母、まきの方は気が狂って死んだが、侍女たちの中でキンだけが、最後まで忠誠に仕えた。まきの方は、死の間際に正信を呼び、キンを中老として遇するように遺言。キンには寵愛の牡犬を与えた。三年後、キンは、男子禁制の奥向きにもかかわらず、男の子を生み、悶絶して息絶え、牡犬も、その死を恨んでか十日十夜吠え通して、餓死した。人々の口は、人獣交婚を囁き、その子は、殉死した犬が斑であったため、斑平と名付けられ、<犬っ子>と賤しめられた。

 斑平は、生まれながらに疎外者であった。

 そお斑平が、意外な才能を発揮したのは、二十数年後の、夏。

 無足長屋の空地に、見事な花々が、つぎつぎと咲いた。その華やかな美しさは、まさしく名人の才能で、斑平は、初めて登城が許され、城内の花造りを命じられた。また、藩主正信の馬尻について一歩も遅れず、二里でも三里でも駆け通す韋駄天の速足をみせ、無足組頭に上げられ、馬乗下役に取りつけられた。「やはり、犬っ子よ」という噂が家中ばかりか隣藩にまで、ひびきわたった。

 その頃、藩主式部少輔正信の行動に奇行が目立ち、母まきの方の血を継いだか、突発的に狂乱の振舞いを示した。城代影村主膳、小姓頭神部菊馬は、密かにこの事実が幕閣に知れ、お家改易になることを怖れた。そして、公儀隠密が放たれることも・・・。

 斑平の日常は変りなく、朝の馬責めの随従がすむと、城内の栽園で草花の手入れに専念した。長屋には、幼なじみである百姓のお咲がやって来て、何かと親切に女らしく世話をやいた。斑平の心は孤独ながら、日々平和であった。しかし、ある日、斑平は、見知らぬ初老の浪人が、居合術の稽古をするのを目撃した。「抜いて、斬って、納める」驚くべき迅さである。その心気の冴えの生む剣の業に、斑平は魅せられた。それから幾月か、斑平の必死の眼は浪人の稽古を見つめつづけた。見つめることが、学ぶことであった。春のある朝、斑平は、浪人から太刀をもらった。感動に胸をふるわす斑平は、太刀を抱いた。斑平の運命は、この時変わった。

 突然、真夜中に現われた神部菊馬は、斑平に公儀隠密を斬れと命じた。斑平はおびえをおぼえたが、神部に叱咤され、隠れ家に踏み込んだが、逃亡したあとだった。馬を疾駆する隠密を斑平は走って追った。やがて、馬を追い抜き、前方は行って振り向き、構え、鞘走らせた。「斬った」、初めて人を斬った斑平の身中を、強烈な衝動が吹き抜けた。

 二人目を、城下のはずれの寺の方丈で斬った。意外にもそれは斑平に居合術を見せた浪人であった。醍醐弥一郎、隠密ならそれも仮の名であろうが・・・、斑平の両眼に涙があふれた。斑平は弥一郎から授かり、そして今、彼を斬った太刀を真っ二つに折った。 

 藩主正信の行状は、日増しに悪化。藩論は正信を守る保守派と、新藩主を迎えようと主張する革新派の二つに割れ、激突した。若侍たちは、幕府評定所に実情を訴えるために脱藩を計画、実行した。神部は、斑平に彼等を待ち伏せて斬れと命じた。斑平は斬った。妖剣あざ丸をひっさげ、風の如く、矢の如く、走って追い迫り、斬りつづけた。無足仲間の朝蔵も馬役の広野も斬った。総登城の祝日にも斬った。

 「私は、犬っ子とさげすまれる身・・・それが自分の宿命なら、あくまで行く末を自分の眼で見てやろうと覚悟しております。あざ丸を持って、なんの祟りも受けなかったら、私の勝ち・・・祟りをうけ非業の最期をとげたなら、私をとりまく世間の勝ち。この賭けをお見とどけください」

 斑平は、激しい憤りを内に、宿命と忠実に冷静に立ち向った。山麓の一画を美しい四季の花々で埋め尽くす夢も、お咲とひっそり語り合うだけだった。そして十一人を斬った。

 正信が変死し、新海野藩主を迎えた。斑平は謹慎を命じられたが、十一人の遺族は、斑平に仇討ちを仕掛けた。

 今、山麓の花畑で、斑平は、三十人の若侍の白刃に包囲された。斑平とお咲の二人の花園は、血と怒号の決斗場に一変。めくるめく太陽をあび、斑平は斬る。(公開当時のプレスシートより)

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   本作は『斬る』(1962)『剣』(1964)と共に雷蔵主演・三隅研次監督コンビによる「剣に生きる主人公」を描いた《剣三部作》として語られることが多い。しかしながら、主演の雷蔵と三隅監督、それに脚本を担当した星川清司の三人にはむしろ、本作を新たなるシリーズの第一作にしようという野心があった。

 そのシリーズとは柴田錬三郎原作による《剣鬼シリーズ》(新潮文庫の「剣鬼」に七編、「無念半平太」に六編が収められている)である。本作の原作もその《剣鬼シリーズ》中の一編「人斬り斑平」である。三人の意気込み通り本作は魅力溢れる傑作に仕上がっているが、公開当時は期待されたほどの興行成績を残すことができず映画版《剣鬼シリーズ》は幻の企画に終わることとなる。次回作には「刃士丹後」が選ばれ、既に準備に入っていたという。 

 上記新潮文庫版とは別に廣済堂出版「人斬り斑平」(71年初版発行)、春陽文庫「人斬り斑平」(83年発行)、双葉文庫「時代劇原作選集―あの名画を生みだした傑作小説」(子母沢寛「座頭市物語」、村上元三「ひとり狼」も収録)でも読める。詳細は、シリーズ映画、その他のシリーズ「剣三部作」参照。

   

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