眠狂四郎無頼控・魔性の肌

1967年7月15日(土)公開/1時間28分大映京都/カラーシネマスコープ

併映:「女賭博師」(弓削太郎/江波杏子・川口小枝)

企画 奥田久司
監督 池広一夫
原作 柴田錬三郎
脚本 高岩肇
撮影 竹村康和
美術 下石坂成典
照明 美間博
録音 大谷巌
音楽 渡辺岳夫
助監督 溝口勝美
スチール  
出演 鰐淵晴子(ちさ)、成田三樹夫(三枝右近)、久保菜穂子(おえん)、金子信雄(朝比奈修理亮)、木村俊恵(園枝)、三木本賀代(お千代)、伊達三郎(神戸七郎太)、五味竜太郎(大沼伊織)、福井隆次(北条五平)、黒木英男(川南弥太七)、稲葉義男(巴屋)、寺島雄作(朝比奈家用人佐兵ヱ)
惹句 『今宵また、抱いた女体に殺気が走る抱いて燃えず、斬って冷たし円月殺法』『襲うものは斬る誘うものは犯す剣と色との五十三次』『女はいただく、命はやれぬ罠を承知で肌を抱き、あえぐ女体が知らぬ間に、闇にひそんだ刺客を斬る

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■ 作品解説 ■

 昭和三十八年の『眠狂四郎殺法帖』に始まること既に九作目、今年にはいってからはじめての時代劇とあって、主演の市川雷蔵も大いにはりきっている。ポルトガルより天草四郎に送られたと云う秘宝、マリアの像をめぐり、狂四郎の行く手には暗雲がただよう。静かに空を斬る円月殺法は今日もまたさえる。

 狂四郎をとりまく、狂四郎ガールズには、鰐淵晴子、久保菜穂子、三木本賀代、長谷川町子らが扮し、その他に、金子信雄、成田三樹夫、五味竜太郎らの異色キャストを組んでおります。監督は、狂四郎シリーズ二本目の池広一夫が快調にメガホンを取っております。(公開当時のプレスシートより)

 天草四郎ゆかりのマリア像をめぐる闕所物奉行と邪教集団の攻防に巻き込まれた狂四郎の活躍を、江戸から京都への道中形式で描いたシリーズ第9作。原作の一編「狂四郎独歩行」が下敷きとなっている。前作で希薄だったエロチシズムを強調し、呼び物であった“狂四郎ガールズ”の趣向を復活させ、新たなシリーズとして巻き直しを図った感がある。それまでの作品と異なり、タイトルに副題「眠狂四郎無頼控」を冠したのが、その現われともとれる。監督は『女妖剣』の池広一夫。脚本はシリーズを初めて手がける高岩肇で、時代劇、現代劇を問わずミステリータッチの作品で持ち味を発揮した作家だ。本作品でも物語の背景に忌まわしい秘密を忍ばせ、ラストでヒロインを悲劇の底に突き落とした。高岩は大映では雷蔵の《忍びの者》や江波杏子の《女賭博師》などのシリーズを多く手がけた。

 本作品の登場人物では、隠れキリシタンの一派が転じた黒指党の首領・三枝右近のキャラクターが異彩を放つ。狂四郎と同じ異人との混血で、苦難の人生を歩む中で悪魔に心を売り渡した男である。狂四郎と右近、共に暗い影を背負った二人の一種宿命的な対決が大きな見所である。クライマックスで描かれる二人の対決は、色取り取りの友禅染がはためく河原が舞台で、狂四郎に「血を流すには美しすぎる・・・」と呟かせている。鮮やかな色彩あふれる画作りと、ケレン味たっぷりの演出は池広監督の独壇場である。

 この三枝右近を演じたのは、鋭い眼光とシャープな演技で悪の魅力を発散、雷蔵の『ある殺し屋』(1967)や大映テレビ『土曜日の虎』(1966)の主演などでメキメキと頭角を現した成田三樹夫。また朝比奈の娘ちさを演じた鰐淵晴子の、清楚な中にも仄かな色気を湛えた風情も印象深い。彼女は、警護の代償として自分の体を所望する狂四郎に幾多の危険が伴う京への旅の中で信頼を寄せ、やがては惹かれていく武家娘を可憐に演じた。奉行朝比奈役の金子信雄が特有の粘着した演技を見せた他、シリーズ常連の久保菜穂子を筆頭に、長谷川町子、三木本賀代らがエロチシズムを競った。(King Records「眠狂四郎、音楽控下巻」より)

■ 音 楽 ■

 音楽はシリーズを初めて手がける渡辺岳夫(1933〜1989)。「交響曲・野人」や多くの映画音楽を手がけた作曲家・渡辺浦人を父に持つ彼は武蔵大学在学中からジャズ演奏に傾倒、同時に父の映画や放送音楽の仕事のアシスタントを経験した。パリのスコラカントルム音楽院への留学後にテレビプロデュサーを経て作曲家として一本立ちした。以来「巨人の星」「アタックNo.1」などのアニメーションや「ながい坂」「白い巨塔」などのテレビドラマの音楽に活躍。特に『新選組血風録』(1965)『俺は用心棒』(1967)『あゝ忠臣蔵』(1969)『燃えよ剣』(1970)と連なった東映テレビ時代劇で聴かせた、適度にウエットなメロディーとモダンなハーモニー進行が同居する流麗な作風は渡辺岳夫節として多くのファンを掴んだ。

 映画音楽は既に1950年代末から大映京都作品を手がけていたが、本格的なものはテレビで名声を得た1960年代後半からであった。大映ではこの《眠狂四郎》を含め『新書・忍びの者』(1966)『若親分を消せ』(1967)『ひとり狼』(1968)など雷蔵主演作品を多く手がけた。また藤純子の《緋牡丹博徒》シリーズ(1968〜1972)や高倉健の『望郷子守唄』(1972)など東映仁侠映画も多く手がけ、その主題歌をヒットさせている。また1970年代後半に東映京都で牧口雄二監督が連発した異色時代劇群にこの上無く美しいメロディを書いたのも彼であった。1989年没。享年55歳。

 本作品の音楽ではタイトルバックで流れるムーディな渡辺岳夫版の「狂四郎のテーマ」をメインに、テーマの伴奏から派生したリズムパターンを道中形式で進行する物語に合わせ全編にちりばめた。オーケストレーションは管楽器を主体としたジャズのフルバンドに近いスタイルで、そこにアコースティックギターやフルートの絶妙なソロを絡ませている。本作は、それまでクラシック寄りだった大映時代劇の音楽にポピュラーミュージックの方法論を持ち込んだ、大胆な試みの一作だったのかもしれない。(King Records「眠狂四郎、音楽控下巻」より)

■ 物 語 ■

 眠狂四郎がはからずも京都への長い道中をすることになったのは、闕所物奉行の朝比奈修理亮から懇請されたためでも、その娘ちさの肌がめあてでもなかった。生れおちてから肉親のしがらみに背を向けて生きてきた狂四郎に姉がおり、いま京都の尼寺の死の床で、ひとめ逢いたいという切々たる肉親の情が書き綴られた手紙を受けたせいである。

 馴染みの矢場女おえんは、この話を聞くと淋しくなると引きとめ、狂四郎の決心が変らないと知ると、自分も一緒にいくといった。

 かくて狂四郎は京都へと旅立った。前後して京都御所への献上品を警護した朝比奈の家来達の一行が、そして男装したちさと用人佐兵ヱの二人も出発した。

 一行を狙うのは、黒指党と称する隠れ切支丹の一派であった。その黒指党が宝物と崇める、ポルトガルより天草四郎に送られたと云う純金のマリア像を奪い取ろうと機をうかがっていたのである。首領は三枝右近と呼ばれる白面の青年剣士、それに従う二十余名の選り抜きの輩下は、いずれも左手の小指の爪を真黒に塗っていた。

 江戸を発って間もなく献上品警護の一行が黒指党一味の襲撃によって全員惨殺された。だが目的の品は見つけることが出来なかった。実は彼等は囮でちさが懐中にしていたのだ。狂四郎の身にも、昼となく夜となく黒指党の手はのびたが、そのたびに夢想正宗のサビと消えた。

 一方この旅は、狂四郎の予言の如く女難の旅でもあった。狂四郎に体を開き、その床下から夫に狂四郎を襲わせる武家女。毒の湧き出る温泉に狂四郎を誘い込む裸女。女たちは狂四郎の前に現われては誘惑した。いずれも黒指党の一味で、罠に誘おうとして失敗し、誤っては仲間の刃に倒された。

 江戸より道中を共にして来た狂四郎を、いつしか慕いはじめたちさは、狂四郎に女が近づくたびに、嫉妬に燃える自分に気づいて赤くなった。

 そして京都へ近づいた時−執拗に一行を狙った黒指党も、狂四郎のために大半を倒されていた。また狂四郎の後を慕って追って来た矢場女のおえんも−黒指党の一味だったのだが−一味を裏切ったために殺された。

 京都へ到着すると狂四郎は、一行と別れて、姉の住む尼寺を訪れた。だが、狂四郎の予想したごとく、彼に姉などなく、待ちかまえていたのは短筒を手にした二人の尼僧であった。

 一方ちさと佐兵ヱの二人は、目的の場所巴屋太郎兵ヱの染め場を訪れた。そこには江戸にいるはずの朝比奈修理亮が待ち受けていた。そして意外な事実を知らされた。

 闕所物奉行は双生児であった。弟は放蕩無頼の男で諸国を流浪し、兄を恨み続けた上に、家を出奔する前、兄のいいなづけであった園枝を犯していたのだ。しかも、ちさはその時の子であった。彼は密かに修理亮の家に現れるや、兄を殺しすり替わっていたのだが、その秘密を知った園江は狂四郎にすべてを記した遺書を残し自害したのである。しかも、奉行に化けた卑劣漢の弟は、多くの犠牲を払って京まで運んできたマリア像を巴屋に売り渡すことにしていたのだ。あまりの非道をなじったちさは実の父親の手にかかって斬られてしまった。そこへ二人の尼僧に連れられた狂四郎がやって来た。肉親のしがらみに背を向けて生きてきた狂四郎だが、瀕死のちさの姿に、許すことの出来ぬ激しい怒りに駆られ、夢想正宗を鞘走らせた。偽修理亮、巴屋を倒したあとは、黒指党との死闘が待っていた。(公開当時のプレスシートより)

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歴史読本1994年11月特別増刊号[スペシャル48]RAIZO 『眠狂四郎』の世界に詳しい。また、シリーズ映画「眠狂四郎シリーズ」参照。

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