悪い批評もなんのその

 では休憩時間にロビーへ出てみましょう。今私の手許に集められた各新聞、雑誌にはこの公演についての批評がのっているものばかりです。私事になって恐縮なんですが、私がまだこのお芝居を見ていない頃に批評が出て、それも大変悪評のため数人の友人が早速連絡してくれたが「これからの雷蔵さんのために、かえって良かったわ・・・」と云うと、皆一応に驚いていたが、結局悪くて良かったと云い切ったのは私だけでした。なぜだか・・・。では一寸目を通して下さい。ざっとこんな程度です。

 愛嬌にとぼしく、熱演型でないから芝居にもり上りがない・・・それでも客は続々つめかける(週刊新潮)、六年間の空白が大きく芝居の出来は大した事はない(週刊サンケイ)、ごまかしのきかぬ芝居の世界では年期がものをいうのだ(サンデー毎日)、映画スター雷蔵の魅力は偉大というほかなく、六年間の空白と又劇中劇の「鈴ケ森」は見どころで寿海丈の演技と、雷蔵は久し振りの親子競演で熱演している(朝日、毎日、大阪、新関西新聞)。

 こんな事書いてあるのを読んでるうちに、祭ばやしの開演の様です。私の側を足ばやに通りぬけて行く三人連の女の人が「良くセリフが聞こえるのは雷ちゃん一人やったなあ」「ぼんちは映画の方が良かった。実演はあかん」「祭ばやしはきっときれいでえと思うわ」悪批評などなんのその、私も急いで自分の席へすわりました。