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金さえあれば命もいらぬと云う

世にもあきれたケチンボウをめぐる人間性の悲劇

 

 この映画は、生前溝口健二監督が、井原西鶴「日本永代蔵」「世間胸算用」「万の文反古」に取材し、依田義賢と共同脚色したものだが、惜しくも製作にかかる寸前に他界した。ところがこのたび吉村公三郎監督が故人の霊にむくいるためにメガホンを取ることになった。

 京の女を描いては、すでに独特のタッチをみせ定評のある吉村監督が、大阪の男、それも希代の吝嗇家という京女とは全く異なる人間を描くというのである。『夜の河』『四十八才の抵抗』と近頃油の乗り切った感があるだけに、期待もまた大きい。

 話は元禄の頃、かって水呑み百姓時代にいやというほど貧苦の辛さをなめた仁兵衛(中村鴈治郎)が、茶屋と両替商を営むまでに身上を築いてからも、爪に火をともすほどのケチンボで、ついには女房に死なれ、子供二人にはそむかれ、蔵の中で金箱を抱きしめて発狂するという大阪商人の業につかれた姿を描き出そうとするものである。

 この男を中心に、それに輪をかけたしまり屋油問屋のお徳(三益愛子)と、放蕩息子市之助(勝新太郎)、薬も碌に与えられず死んで行く女房お筆(浪花千栄子)、市之助にそそのかされて金を持ち出してしまう息子吉太郎(林成年)、市之助との縁組を嫌い、番頭忠三郎(市川雷蔵)の後を追って家を出て行く娘おなつ(香川京子)など、様々な人物を登場させて、その底にひそむ色と欲の世界を摘出しようとする。また遊女に小野道子、中村玉緒が扮する。

 西鶴文学と吉村監督との結合からいかなる新味が生れるか、好演を伝えられる鴈治郎の大阪商人とともに興味つきない陽春の異色作である。撮影杉山公平。( キネマ旬報170号より )