大正から昭和へと移り変わる時代の中で生きつづけ、多くのファンにいつも夢と希望を与えてきたブロマイド。その印画紙に焼きつたスターたちのさまざまな表情を見ていると、懐かしさとともに甘ずっぱい感情が込み上げてくることでしょう。あおのスター、あの時代、スターとともに生きたあなたの青春が、いま甦ります。

 時代の生き証人ともいうべきブロマイドを通して70年間の世相、風俗をつづった画期的な1冊がついに登場!青春のタイムカプセルとも呼びたい貴重な記録です。(主婦の友社 08/06/1988)


 

 美剣士スターの登場

 昭和29年から30年にかけて、東映の中村(萬屋)錦之助や東千代之介、伏見扇太郎、大川橋蔵、大映の市川雷蔵らが相次いで映画界にデビューする。そしてブロマイドの人気も、こうした時代劇の新しい美剣士スターに集まった。また丘さとみ、大川恵子、円山栄子、花園ひろみ、桜町弘子、北条きく子、田代百合子といった"お姫さま女優"たちも、美剣士スターの相手役として脚光を浴びた。

 「中村錦之助が東映の『笛吹童子』シリーズで人気スターになった当時、ブロマイドが飛ぶように売れた。その点、東千代之介は錦之助の半分くらいでしたね。大映では市川雷蔵がトップで、勝新太郎はあまり売れなかった。雷蔵のブロマイド人気は、死後もずっとつづきましたよ」(松花堂の萩原金一)

 東映の『笛吹童子』、『紅孔雀』などが公開された昭和29年といえば、東京の池袋〜御茶ノ水間に戦後初の地下鉄が開通し、青函連絡船の洞爺丸が台風で転覆して1,115人の死者・行方不明者を出した年である。放送開始二年目のテレビは、まだ受像機が全国に約3万台のころで、大衆娯楽の中心は映画だった。そんな時代に、中村錦之助はたちまち子供たちのアイドルとなり、その爆発的人気は"錦ちゃんブーム"といわれた。