年末になると、主要映画会社が関係各方面へ、お歳暮がわりに配ったり、ファンに実費?で頒布したりするスター・カレンダーは、かくれたベスト・セラーといっていいほど意外な人気をよんでいる。会社などがもらうと、若い男女社員はいうまでもなく、いい年した連中までもが、オレにくれアタシにちょうだいとおしよせて奪い合い、結局クジ引きにするといった具合。もらうのが個人でも同様で、図々しいのが、今年もA社のを下さい、と電話ご予約申込みをしてきたりするが、なかにはおなじみの飲み屋などへもっていって顔をよくしようというさもしいご仁もいる。ところが、その飲み屋が、もらった各社のをずらりとならべて値段をつけ、お客に売るのだからおそれいる。

 一般に売る分は、邦画五社とも今年は封切館の入場料なみの350円だが、売りだすやいなや、アッという間に売切れてしまう。洋画関係では数社だけが、月ごとに一画を使う形式のものを作成し、大きさは45X30センチぐらい。各月一人のスマートなポートレート集に仕立ててあるのが多いが、邦画五社となると、各社とも75X51センチ - 74X48センチというバカでかさ。めくるごとに総天然色版のスターがよそおいをこらしてズラリとあわられるのだから。350円でも安いと思うファンも多かろう。といった次第で、発行部数は相当なもので。邦画各社はそれぞれ最低7、8万と推定される。

 さて、スター・カレンダーは豪華なスター写真集というだけではない。各社にとっては現有勢力をズバリと示す一大デモンストレーションである。従って、カレンダーにのせるスターの人選、順序、組合わせが大変な苦心である。洋画のほうは、自社に関係するスターのポートレートを、手持ちのものを使ったりアチラから送らせたりして配列すればいいのだから、はるかに容易である。そこで、はなしを邦画五社にかぎるとするが、作成の準備がはじまるのが各社ともだいたい五月、六月ごろ。宣伝部が中心になって企画をたてるが、営業方面からの意見も出る。首脳部の裁断を仰がなければならないのはいうまでもない。

 まず人選は、現在の大スター、若手人気スターが主眼で、これから売りだそうという新人を加える。ある年、ある社のカレンダーに、てんで名前も知らないような若い女優さんが入っていた。好奇心のつよい映画ジャーナリスト某氏が、わざわざ事情をたしかめてみたら、其の会社のエライ人のお声がかりの結果だったという。もう、いまはこんなアホなことはないと信じるが、人選もラクではない。

 だれをどの月にはめ、だれをだれと組合わせるかが、つぎなる難問である。原則としては、重要なスターはだいたい上半期か、おそくとも九月ぐらいにまでならべるのだが、並べかたによっては文句をつけるスターがあらわれる。その横ヤリをとおして配列をかえるか、説得して原案のままがまんさえるかがまたひと苦労である。二人とか三人とかのスターと組合わせる場合にも、大スターのほうから、そんな相手とはいっしょではいやだ、と苦情が出たりする。いわゆる大スターをかかえている会社ほど、こういう苦労が多いわけである。

 撮影は、たとえば今年の大映の秋山庄太郎、松竹の早田雄二のように、有名写真家に依頼する傾向がつよくなっている。本業の映画撮影のスケジュールと見合わせて撮るが、ある会社などはそのスケジュールがぎっちりと詰まっていてからだがあかず、夜半だの夜明けだのに撮ったことが多いという。

 レイアウトも腕のみせどころ。各社それぞれ工夫をこらしているが、とくに頭を悩ますのは各月の趣向で、夏は夏らしく、冬は冬らしくなければならないが、水着とか登山姿とか、スキーとかサンタ・クロースとか、きまりきった定石をいかに打開して新手を出すかが勝負どころとなる。

 かくして、あれやこれやの苦労のあげく、美麗にして豪華なるカレンダーはできあがり、皆さまのお手もとへ届くのであるが、まずはとっくり、ここにならべた縮写版をごらんねがいたい。だれがいちばん美人か、といったことは皆さんのご判断にまつとして、全体を眺めわたしてわたしがいちばんに気がつくのは、常識化されていた編集方針が、ぐっとくずされていることであろう。数年前までとちがって、一人のスターが一人だけで一面を占領している場合が、非常にすくなくなり、相当なスターでも二人以上の組合わせがふえているのである。これは邦画各社の手持ちスターの現状を反映している。もちろん、編集方針が、毎月をにぎやかに、という傾向になってきた結果であるとも考えられるが、一人で大きな一面をもちこたえられる強力なスターがすくなくなった、とみることもできるのである。質より量で派手にみせるという感じがつよく、雑魚のトトまじえいみたいな画面がすくなくない。危機を叫ばれている邦画とはいえ、いささか寂しくなってくる。