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 日本史上初の外国船焼打ち事件を題材とする大映京都の『ジャン有馬の襲撃』は、伊藤大輔監督、市川雷蔵のコンビでクランク中だが、このほど物語りの発端となる、チュウチャン港(史実ではマカオ)の日本人水夫銃殺シーンが和歌山県白浜温泉近くの海岸で行なわれた。

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 これはキリシタン大名有馬晴信(雷蔵)の持ち船の水夫たちが、イベリア(史実ではポルトガル)の国旗侮辱の罪で処刑され、これを怒った晴信が復讐を試みるきっかけとなるわけ。ロケ現地には、断崖絶壁を利用しスペイン風の城壁が造られたが、高さ7メートル、幅27メートルと45メートルというこの大城壁を築くのに、現地の人夫60名と大映装置係が総出動で10日間かかったという。

 ロケ隊はスタッフ、キャスト合わせて136名だが、ほかに日本人、シナ人、黒人、イベリア人にふんするエキストラ300名を現地で雇い、イベリアの隊長(ジュリー伊藤)、船長(ピーター・ウイリアムス=白系露人)のほか、神戸の外人エキストラ14人が参加するという大がかりなもの。これらによって処刑シーン、処刑を止めようとする日本人居留民、これに発砲するイベリア兵との乱闘シーンなどが撮影された。

 このロケの立役者は隊長役のジェリー伊藤で、彼は舞踏家伊藤道郎氏の子息。長い間アメリカに留学、ブロードウエーでトニー・カーチスらと共演したことがあるという経歴の持主だけに、アチラ仕込みの演技と押し出しで堂々たる貫録を見せていたが、ただ一つ困っているのがセリフというのは、国際関係を考慮して、史実のポルトガルを架空のイベリアに変えたため、言葉はすべてエスペラントにしてある。英語、仏語ならペラペラの伊藤もこれには大弱りで、指導に来た大阪エスペラント連盟の藤本氏につきっきりで練習していた。ロケの紅一点は、潮万太郎の娘でニューフェースの弓恵子、ベテランの娘だけにカンのよさとカメラ度胸は十分、クランク待ちのひとときも、外人スター連から大モテだったが、例によって凝り性の伊藤監督に、左右縦横の移動撮影で引きずり回され、完全にグロッキーとなっていた。

 

フクスポ 06/13/59