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 大映京都のお盆映画『ジャン有馬の襲撃』では、国家と人道のため、ポルトガル船を襲撃したキリシタン大名有馬晴信を市川雷蔵が演じ、幕府の命で晴信を監視しながら、ひそかにこれを助ける長崎奉行に根上淳がふんして顔を合せている。

 この二人は、昨年の『旅は気まぐれ風まかせ』で共演以来、すっかり親友となったが、作品打合せのため待機中のひととき、所内の芝生でおしゃべりをしてもらった。

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雷蔵 根上さん、いい役をもらったねえ、僕の方がお奉行さんをやりたいくらいのもんだよ。

根上 奉行てのは司法大臣か裁判官のようなもので、大体五十前後の人が演るものだってね。どうも貫録負けしちゃってぐあいが悪いや。第一、格好がつかなくって・・・、伊藤監督はそのサマにならないところがいいというんだけどねえ。長政の時でも、現代劇に出てくるバンカラ野郎でよかったし、次郎長はオールスターものだからいいとしても、こんどはシンが疲れますわ。(笑)

雷蔵 いわゆる"らしからぬ"ところがいいんだよ。本当は僕の晴信も史実によると四十一、二歳なんだって、若い方が進歩的で、事件の事情にマッチするからというんでこうなったんだけどね。

根上 ヅラ(カツラ)をみるとまるで少年のような頭だね。とてもかわいいや。(笑)

雷蔵 天草四郎の絵やあの時代の武者人形のようなものをミックスしたんだけどね、二十歳前くらいになっちまったよ。だけど考えてみると大役ですよ、人間として当然なすべきことを教徒というレッテルを踏み越えてやったんだから、よほどの思慮分別がなけりゃねえ。君とは以心伝心、見て見ぬふりをする。つまり大石と立花右近のような間柄になるんだから腹芸で頼んまっせ。

根上 腹芸どころかハラハラしてる。(笑)

雷蔵 どう?時代ものも少しはなれた?

根上 いやあ━、メーキャップに時間がかかるのと、カミシモ着ているのとで、精神的にギブスをはめられているみたい。僕はラフな方で、セットでも時間待ちにはグウグウ寝ちゃう方だけど、こんどは参った。宿へ帰るとガックリするよ、首がまわらねえんだ、借金以上に・・・。(笑)

雷蔵 大げさだなあ。

根上 いや本当だよ。しかし腰がすわる芝居とキマリある点など、現代劇にもアテはまるものであって、この点はプラスになったね。それに案外、雷ちゃんが現代劇に近いものをもっているのに感心した。それが人気のもとだね。

雷蔵 おだてなさんな。(笑)

根上 まあ様式だけに頼ることは、現代化した観客にはアピールしない点もあるだろうし、その点、僕たちがチョコチョコ出るのもいいのかな。しかしどうも"左様しからば"というのは舌をかんでイカン。(笑)

雷蔵 言葉では苦労しているようだね。だけど大分出てるからだんだん分ってきたろう。

根上 ウン、時代劇には男のものが多いな。現代劇で男を描くのは黒澤作品くらいで、あとは男性としては女性映画のサシミのツマみたいなもんだね。(笑)

雷蔵 これはひどい(笑)。ところで秋には君と僕とで井上靖原作の『風と雲の砦』を、森一生監督でやることになってるんだよ。

根上 ウン知ってる。ここしばらくあまり時代劇ばかりに引っ張り出されてるんで、松山さん(製作担当重役)に東京へ転籍させて下さい(笑)と、いったんだけどね、ちょっと帰らさせていただきますわ。

 

フクスポ 06/09/59