痛快な復しゅう劇 史実にスリルとスピード 大映京都ではお盆映画に天然色ワイドで『ジャン・有馬の襲撃』の製作を決定、伊藤大輔監督、市川雷蔵のコンビで十八日から撮影を開始した。この作品は慶長十四年、長崎港外に起ったポルトガル船襲撃事件の事実に取材、キリシタン大名有馬晴信の持船が南支那でポルトガル船に撃沈され、船員が殺されたりドレイにされたのを怒った晴信が長崎で復しゅうする物語。しかしこれは実話によるトラブルをさけて、ポルトガルを架空のイベリア王国に変えている。メガホンをとる伊藤監督を訪ねてみた。 |
伊藤監督の抱負 まずテーマについては同監督は「最初は史実にそくして、日本側の無知による国旗侮辱事件に端を発するとはいえ、ポルトガルの無暴な虐殺、乗組員のドレイあつかいを聞いた晴信が、クリスチャンとして同じキリスト教を奉ずる国に対して公憤から敢然と戦いをいどむという人道主義に焦点を合わせたかったんです。しかし、何しろお盆映画という制約から痛快な復しゅう物語にかえました。“復しゅうならずして日本の面目いかんせん”というところですな」 国名を変えたことについては「事実は事実としてもやはり国際上のトラブルを起したくない。国内でも私が第一回の『丹下左膳』を撮ったとき相馬侯から“あんな暗愚な祖先はいない”と抗議されたり、近くは『女と海賊』の末吉船で、子孫から“海賊あつかいはケシカラン”とやられたくらいですからね。ポルトガル・スペインのあるイベリア半島をモジって架空の国を作ったり、ポルトガル語をエスペラントにしたりいやもう苦労しますよ」と弁明一席。次いで「この事件の終った後、国旗を制定して欲しいと晴信から進言していますね。最初はヒューマニズムプラス国旗由来記というようなのをねらいましたが、割愛しました」と伊藤監督としてはまだ人道主義に未練がありそう。
撮影は『女と海賊』のようにセット・オンリーでなく、海上ロケをやるつもりで紀州のロケハンを行ったが、これまたお盆映画なのでやむなく半分は陸にあげなければならなくなったそうだ。「海で喫水線上八間、長さ四十八間の船を造って欲しいと注文したんですがね。ステージ二棟分くらいあるでしょう。これはとても建造出来ないとわかってあきらめました。結局お盆映画用に痛快なスリルとスピードを盛ったものを作ることに千専念しようときめましたがね。事実はおよそ逆なんだけど・・・」といかにも残念そう。 ここで話題は主役論へ移行し「雷蔵君をアテ込んで書いているから主役については大丈夫。ただ今度はキリシタンではあるが多血質な青年で、同じキリストの国の者でも邪悪は破るという感じを出してもらいたい。その点、信長と違うんだという注文はつけてあります。後は彼の挙動監視役になる長崎奉行とお姫様、これはうんと性根のしっかりしたものになっているので厳選するつもりです。
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