第二次世界大戦の戦況が緊迫してきた。男だけでなく無職の女も徴用にかり出されるようになった。喜久治もいつ召集が来るかわからない。四人の女、ぽん太・お福・比沙子・小りんの身も案じられた。
米軍の反攻が始まると大阪も敵機の来襲が激しくなった。大阪港の上空が真っ赤に燃えていた。河内屋の古い家棟も炎に包まれた。二百八十年間、河内屋を支えてきた重い柱が一瞬に崩れ落ちた。 幸いに一つだけ焼け残った商い蔵。まだ余燼のくすぶる焼け跡に、ぽん太がやって来た。続いて小りん、比沙子、お福ー狭い蔵の中、ローソクの光の中にざこ寝する四人の女。 「起きぃ、起きてんか!」 喜久治が突然、床を踏み鳴らして叫ぶ。アゼンとしている女たちに十万円の札束を五つに分けて積み上げた。女遍歴のはかなさが胸に迫ってくるのだった。 |