時代劇のトップスターだった市川雷蔵が初めて現代ものに挑んだ『炎上』などで主演賞を手にした。
三島由紀夫氏の「金閣寺」を市川崑監督が映画化。雷蔵は苦悩の末に寺に火を放つ障害を持った青年僧を演じ、それまでのイメージを抜け出した。受賞時には同じ主演賞の山本富士子と電話で対談。「とにかく本当にうれしいよ。初めて出た現代劇が受賞の対象になったことでね。この作品に僕が主演するとき賛成してくださったのは(所属していた大映の)永田(雅一)社長と市川監督だけで、あとは全部反対だったんですから」と出演に至るエピソードを披露した。
「私の映画生活で最初の、そして最高の賞です」と授賞式でスピーチしてからちょうど10年後、雷蔵は69年7月17日に肝臓がんで急死する。22歳で歌舞伎界から映画界に入り、15年間で出演した作品は158本。眠狂四郎シリーズなど不世出の時代劇スターとうたわれた俳優は、37歳の若さで天国に旅立った。
告別式には、中村錦之助(後の萬屋錦之介)や山本富士子ら俳優仲間に加え、岸信介元首相の姿も。空からは雷を伴った雨が涙のように降り始めたが、約2000人のファンが焼香に参列し、早すぎる死を悼んだ。
またこの年の新人賞を今村昌平監督が「盗まれた欲望」などで受賞。「あとにも先にもこれが初めての賞。びっくりしてます」と初々しく喜んだ。(シネマ報知ブルーリボン賞ヒストリーより) |