大映京都の『大菩薩峠』(三隅研次監督)は市川雷蔵の机竜之助、本郷功次郎の宇津木兵馬、中村玉緒のお浜お豊の二役、山本富士子のお松のほか、菅原謙二、根上淳、島田竜三、千葉敏郎、丹羽又三郎、笠智衆、阿井美千子、藤原礼子、それに新国劇の島田正吾も出演という賑やかな顔ぶれでいよいよクランク・インした。
おなじみ放れ駒の黒紋付を着流した机竜之助が、大菩薩峠の頂上で老巡礼を斬って屋敷へ帰ってきたところ、殺人を犯した罪の意識などさらにない竜之助は、門弟の一人から御嶽山奉納試合の目録を渡される。相手は 甲賀一刀流宇津木文之丞、一瞬、竜之助の顔に不気味な殺気がみなぎる━という“竜之助の家”というシーン。
ステージいっぱいに組まれた大きな竜之助の屋敷。黒々と陰惨な感じのみなぎった雰囲気の中、雷蔵初役の竜之助もクランク初日とあって、サッと緊張の色が走る。机竜之助といえば大河内伝次郎、片岡千恵蔵という先輩のイメージにいどみ、さらに魅力ある竜之助をみせようと日頃の毒舌や茶目っ気は少しもみせず、沈うつな表情で竜之助の性格に近づこうとしている。 |