ぶきみな剣の魅力をふんだんにもった、中里介山原作の『大菩薩峠・完結篇』(大映)は、森一生の監督で撮影中だ。妖剣音無しの構えをあやつる机竜之助。兄のアダとつけねらう宇津木兵馬。宿命の対決がいよいよこの完結篇で激突するわけ。三たび竜之助にふんする雷蔵も、清新な魅力を表現しようとくふうをこらしている。 流れ流れて甲府にやってきて、お徳(矢島ひろ子)の世話になった竜之助は、村の長者の花婿が、甲府勤番の悪旗本に折檻され、金をゆすられていることを耳にするや、不自由な体にもめげず、九尺柄の長ヤリをひっさげ、悪旗本のいる宿にのりこむ。不気味な盲目の竜之助の出現に一瞬たじろいだ旗本ではあったが、そこはあばれん坊。竜之助に挑戦する、竜之助は長ヤリをひっさげ、この悪旗本たちをつぎつぎと田楽刺しに刺殺してゆく。妖気にみちみちた凄惨な立ち回りである。 なにしろ目をふさいでの立ち回りだけに、からみの方がよほどうまく動かないと、激しさがでない。宮内昌平殺陣師も雷蔵竜之助の動きを少なくして、からにも方の動きに変化をだそうとするが、剣とちがって九尺もある長ヤリの立ち回りとあって、なかなか思うようにこなせない。雷蔵も目をふさぐとどうもカンが狂うとしきりに首をかしげる。これを見た森監督、「雷ちゃん、それは当然だよ。人間の運動神経というのは、視角によって助けられているのに、その肝心の窓をとざしているのだから、うまくゆかないのだ。本番のメクラになると逆に心眼が開くという。竜之助はその心眼によって、人をきるわけだかから、その心境になってやって下さいよ」という。雷蔵もそれに答えて、カン一筋にたよっての立ち回りを続ける。迷惑なのはからみの連中。ヤリの穂先がどこへくるやらわからない。そこは職業がら捨身で竜之助に立ち向かう。予期以上の効果に森監督も大よろこびであった。
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サンスポ・大阪版 05/03/61