ニュー東映の『二・二六事件・脱出』を撮り終えた三国連太郎が、ひょっこり大阪にやってきたのをとらえ、『脱出』のこと、大島渚監督の印象などあれこれ聞いてみた。

 なお三国連太郎は、『脱出』では、迫水首相秘書官(映画の中では速水秘書官)にふんして好演している。


━迫水秘書官にふんするのに、実在の迫水氏にお会いになったか

 「会いましたが、映画のうえではぼくなりにやりました。あの人は政治家としては物の考え方のしっかりした方ですね。なかなかスタイリストですが、あれは外国生活が長いためでしょう」

━映画『脱出』を見ると、反乱軍と警官との撃ち合いがオーバーなように思うが・・・

 「それはぼくも感じています。プロデューサーには、もっと事実に即してやったら、と話し合ったのですが、会社の方針でああなってしまった」

━東映の時代劇はマンネリズム気味だが、あなた自身東宝の『椿三十郎』を見て、どう思われたか・・・

 「いままでの時代劇は、お客さんのサービス精神に欠けていた。その点黒沢監督は大衆をうまくキャッチしている。ぼくはまた三船敏郎さんの野性にあこがれています。あの人の持っている正義感のようなもの、それが大衆にアピールするんではないですか」

━いまの時代劇に欠けているものは・・・

 「群衆場面に厚味のないことですね。エキストラの人にしても、ひとりひとりに感動がない。これは外国映画の群衆場面と比較すればよくわかることです」

━『飼育』『天草四郎時貞』と大島渚作品がつづいているが、あの人の魅力は・・・

 「物の考え方に共鳴しているんです。大島監督は、人間的にはロマンチストで、情熱的だと思うんです。ぼくもそういうところがあるので、役者としてはひかれますね」

━市川崑監督の『破戒』(大映作品)で猪子連太郎にふんする心構えは・・・

 「これまで映画や、舞台で滝沢修さんがやられた猪子連太郎は、演技的にはもちろん完成されたものですが、年よりすぎると思うんです。ぼくは三十四、五歳の猪子連太郎をやりたい」

━これまで出演したもので、好きな作品は?

 「今井正監督の『夜の鼓』です。あの作品には未練がありますね。昨年いろんな賞をもらいましたが、『夜の鼓』で賞をもらいたかった。そのつぎには、一番最初の作品『善魔』(木下恵介監督)です。ぼくは木下監督からいろんなことを教えてもらったので、いまでも木下監督を一番尊敬しています」

━つぎの予定作品は・・・

 「いま京都で東映の『天草四郎時貞』大映の『破戒』に出ていますが、つぎはやはり大島監督の『尼と武士』(大映作品)になります。昨年は四本に出ましたが、ことしもなるべくそのていどにとどめたいものです」

  

 

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