大映作品『破戒』で、このドラマ唯一のヒロインお志保役に、大映京都の演技研究生藤村志保が抜擢されている。市川雷蔵推薦による抜擢だが、雷蔵は「藤村志保さんは、ほかの演技研究生となにかちがうものを感じていた。シンの強さというか、なにか個性的なものがあり、市川崑監督も同意見で、今回の抜擢になったのです」ということだが、この大役に、緊張の毎日を送っている藤村志保を撮影所でとらえ、デビューの弁を聞いてみた。


━芸名の由来は・・・

 「本名は薄操(すすき・みさお)というんです。藤村志保という芸名は、永田社長が、原作者島崎藤村と、役名のお志保にちなんで、つけてくださったものです」

━カメラはこわくないですか・・・

 「いままで総出で出演しているときはなんともなかったんですが、こんどは大役だけに役を意識すぎて、身体が自由に動きません。かちんかちんになっている感じです。宮川先生(一夫=カメラマン)は、自分がきれいに写ろうなんて考えるな、と気持ちをほぐしてくださるんですが」

━市川崑監督の印象は・・・

 「みなさんが。こわくない、こわくないといってくださるんですが、やはりきびしいものを感じます。演技はていねいに教えてくださるから、私は先生のいわれるとおりに動くだけです。いまは、お志保の陰影を出すため、もっとやせてほしいといわれています」

━雷蔵さんとは以前から知りあいか・・・

 「いいえ、今回の抜擢ではじめてのおつきあいです。ふだんの雷蔵さんはやさしい方ですが、お仕事になると、がぜんきびしくなられ、変わり方の激しさにおどろくことがあります。ほんとうに尊敬できる方だと思います」

━お志保になりきる心構えは・・・

 「お志保という役は、丑松の悩む姿にひかれて、心からの同情をよせる役ですから、やはり市川先生のいわれるように、カゲの少しある寂しい感じを出さなければいけないのだと思います」

━和服がよく似合っているが、日本舞踊をやっているのでは・・・

 「花柳流の名取りです。総体にきりっとした踊りが好きで、男舞いの方が得意です」

━歌舞伎と映画ではだれが好きか・・・

 「中村勘三郎さんのファンで、世話物が好きです。外国映画では、ナタリー・ウッドさん『ウェスト・サイド物語』『草原の輝き』どちらのナタリー・ウッドもすばらしかった。日本映画では新珠三千代さん、あの清潔で上品な感じが好きです」

  

 

 

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