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この荒法師の役で、面白い話が一つある。如空という頭株の役になるのが沢村国太郎。清盛方と延暦寺側とが衝突して、叡山の荒法師達が一山あげて平家方をもみつぶさんと、神輿をかついで山を下りることになる。この時に導師になって大護摩をたき、不動経を読むのが沢村国太郎の役なんである。
しかし、お経のどの部分をやれと溝口監督が云うかわからないから、「その時になって、まごつかないように全部覚えておいてください」と助監督から云われた沢村国太郎。延暦寺の末寺である坂本の某寺へ出かけて、住職に会い、不動経の指導を乞うたところ、話を聞いた住職が「とんでもない、これはそうカンタンに覚えられるもんじゃありませんよ。何しろ本職の私達が、滝に打たれて百日間荒行をしてから、やっと覚えるんですから、ニ、三日で覚えようなんて滅相もない」と。
それから、手の組み方、指の動かし方、いろいろ教えてくれたが、一度位では覚えられるシロモノじゃない。それから不動経をやってもらい、タップリ三十分かかるものを持参のテープレコーダーに録音して持って帰った。毎晩それをかけては、ノーマクサンマンダーラと少しずつ覚えたと云うんだが、近所では国さんが、俄に頭は剃るし、毎晩お経の勉強はするし、暑気当りで、どうかしたんじゃないかと、もっぱらの評判だったと云うことだ。
護摩を焚いて、不動経を読むシーン(太秦広隆寺で撮影)
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