話題作のセット撮影は、ネバリ屋で知られる溝口監督のメガホンというので、笑うに笑えぬ、あらほんとうかしら・・・というようなゴシップが続々と生れています。

 

荒 行 珍 談

 この荒法師の役で、面白い話が一つある。如空という頭株の役になるのが沢村国太郎。清盛方と延暦寺側とが衝突して、叡山の荒法師達が一山あげて平家方をもみつぶさんと、神輿をかついで山を下りることになる。この時に導師になって大護摩をたき、不動経を読むのが沢村国太郎の役なんである。

 しかし、お経のどの部分をやれと溝口監督が云うかわからないから、「その時になって、まごつかないように全部覚えておいてください」と助監督から云われた沢村国太郎。延暦寺の末寺である坂本の某寺へ出かけて、住職に会い、不動経の指導を乞うたところ、話を聞いた住職が「とんでもない、これはそうカンタンに覚えられるもんじゃありませんよ。何しろ本職の私達が、滝に打たれて百日間荒行をしてから、やっと覚えるんですから、ニ、三日で覚えようなんて滅相もない」と。

 それから、手の組み方、指の動かし方、いろいろ教えてくれたが、一度位では覚えられるシロモノじゃない。それから不動経をやってもらい、タップリ三十分かかるものを持参のテープレコーダーに録音して持って帰った。毎晩それをかけては、ノーマクサンマンダーラと少しずつ覚えたと云うんだが、近所では国さんが、俄に頭は剃るし、毎晩お経の勉強はするし、暑気当りで、どうかしたんじゃないかと、もっぱらの評判だったと云うことだ。

護摩を焚いて、不動経を読むシーン(太秦広隆寺で撮影)

3

軍 鶏 性 神 経 衰 弱

 久我美子さんの時子の弟時忠に扮するのが林成年。当時の公卿の不良青年タイプを演ずるわけだが、役を地でゆく腕白ぶりを発揮して姉さんの久我ちゃんを困らせる。その彼も軍鶏(シャモ)だけには閉口した。これを小脇に抱えて、蹴合せにつれてゆく、というシーンがあるのである。軍鶏はドーモーだから掴むのだけでも大変で、前から手を出そうものなら、忽ち、あの鋭いくちばしで突かれてしまう。手をつつかれて小道具係さんが怪我をした。眼などを突かれたら、それこそメクラになってしまう。それを小脇に抱えるのである。

 小道具さんの手から怖々抱かせて貰って、宣伝スチールなど撮ったものだが、本番の時には、この軍鶏を、姉さんの久我ちゃんが、怒って取上げてしまうのである。久我ちゃん、この軍鶏の顔を見てビックリしてしまった。

 「あれを抱くの?」

 とそれ以来、シャモ性神経衰弱になっちゃった。

 「大丈夫ですよ。可愛いもんですよ。ボク、本番の時を楽しみにしているんです」

 「とか何とか云って、本当は私が、キャーとかいうのを楽しみにしているんでしょう」

 とプンプン。