千田是也と木暮実千代に演技をつける溝口監督(後向き)
四、
『新・平家物語』は結局、撮影日数七十日足らず、正味六十日ぐらいかかるらしい。仕上げ呎数は九千呎前後の予定である。
君、神輿が出来たのが撮影の半ばごろでしょう、中々予定通りの二ヶ月では上りませんよ。スタアたちのかけ持ちも困ります。ぼくはゴールドウィンのスタジオで新作品の主演者を選ぶと云うので、五人のスタアのテストをやっているのを見て来ましたが、スタアのかけ持ちなんて中国映画でもありゃしない、こんことでは駄目ですよ、君、−と云った溝口さんの烈しい言葉をさっき、板敷きの上を、一人で飛び歩いていた凄まじさを感じさせる姿とを思い出しながら、企画部に戻って来た。
辻プロデューサーから、ラッシュの色調の良いこと、雷蔵の清盛が中々良いことなど聞くうちに、ぼくにも『新・平家物語』への期待の心が高まっていった。車で四条へ出たら、もう六時近かった。
(村上忠久 「キネマ旬報」55年9月下旬号より)