"しがねえ恋の情が仇・・・"の名セリフで有名な、歌舞伎狂言「玄冶店」の切られ与三郎とお富の世話物は、かって長谷川・山田(松竹)、浩吉・嵯峨(同)のコンビで映画化されたが、こんど大映京都で伊藤大輔監督が自ら稿を新たに、市川雷蔵・淡路恵子のコンビで映画化することになった。

 『弁天小僧』で雷蔵と組み、歌舞伎狂言の映画化に成功した伊藤監督が、再び雷蔵を使って歌舞伎狂言の映画化に挑戦するというものだが、あらたにお金という与三郎の義理の妹を登場させている。与三郎とお富のとの濃厚な交情と対照的に、お金の純情をからませてゆこうというもので、十三歳から十六歳まで演じるアドケない感じの少女スターを物色していたところ、たまたま伊藤監督の目に止まったのが、テレビに出演中の富士真奈美。かってはNHKテレビの人気スターとして、松竹京都から映画にデビューしたこともあるという経験と、可憐な容姿を買われてテストの結果出演が決まったもの。

 伊藤監督は、「テレビでみて、何かフレッシュなものを感じさせ、しかも芝居が達者なところから扮装テストをやってみたら、まず大丈夫と思ったので、使うことにしました。お金は与三郎を慕っているのですが、それを表面に押し出すと変な色気になるので、あくまで伏せておき、最後に御用提灯に取り囲まれた二人が、初めてそういったものを感じるという具合にしてみました。お富と与三郎の油っこい関係の中にあって、玄冶店の見世場とともに、一つの人生航路の格差として力を入れてみたつもりです」と、語っていた。

 これにたいして富士真奈美は、「松竹で時代劇の経験はありますが、一年以上ブランクがありますので、果たして伊藤先生のご期待にそえるかどうか不安です。巨匠とベテランスター雷蔵さんらとご一緒して、こんなむずかしい役をこなさなければならないという責任から、うれしいようなちょっと表現しにくい気持です。これを機会に映画の方でも頑張ってみたいと思います」と、カムバックの意向をほのめかしていた。(フクスポ 05/28/60)