日本映画界の王座を目指す大映が、七月お盆映画として、自信満々のうちにおくる大映スコープ・総天然色『切られ与三郎』は、一昨年秋『弁天小僧』を発表して大ヒットを放った主演市川雷蔵、監督伊藤大輔、撮影宮川一夫の名トリオが、同じく歌舞伎の当たり狂言に再び取り組む意欲と風格にあふれた娯楽時代劇として鋭意撮影中である。
これは、向う疵の与三郎が、お富をゆすりに行く「いやさ、お富久しぶりだな」の名セリフで有名な源冶店の場面を中心に、伊藤監督が、奔放な創意を加えて、新しいストーリーを展開、お富と与三郎の数奇な愛憎流転の姿を描くと共に、新しくラストを感動的に結んで、詩情あふれる最高ドラマの構成に改編されるのが特長とされている。
キャストについては、特に慎重な選考の結果、悲運の主人公与三郎には、打ってつけ当代第一の人気もの雷蔵を、妖艶お富には淡路恵子を、情熱の女かつらに中村玉緒を決定したものの、新しく設定された純情娘お金の女優に行詰まった。それは十三才から十六才の役柄だけに、子役と娘役の中間を演ずる、いわゆる女優年令の盲点に近い役どころのためである。広く映画、演劇、ラジオ、テレビのタレントのうちから、色々と物色
の結果、フリーとしてもっぱら可憐なマスクを持味に、テレビで大活躍中の明眸、富士真奈美に遂に白羽の矢がたてられた。こうして四大スタアの決定以外に、藤原礼子(もと大和七海路の改名)、村田知栄子、浦辺粂子、多々良純、小沢栄太郎、香川良介、潮万太郎、小堀阿吉雄、嵐三右ヱ門、山路義人といった異色多彩なベテランメンバーが、ずらりと顔を揃えている。
スタッフ中、久しぶりに伊藤大輔監督と宮川一夫カメラマンが組んで、見ごとな作品をていきょうしてくれるものと、各方面の期待は大きい。
(フクスポ 06/24/60) |