
○・・・長くたらした洗い髪をふりみだして、狂ったあげくに二階から落ちて死ぬという大ヘンな役に取り組んでいる大映の純情娘中村玉緒が、鬼気せまる?演技で京都撮影所の話題をさらっている。
「しがねえ恋の情が仇・・・」の名セリフで知られる歌舞伎の当たり狂言を新解釈した『切られ与三郎』(伊藤大輔監督)で、中村は人殺しをした上に、恋人の市川雷蔵を裏切り、最後は狂死するという大悪女かつらに扮して熱演しているが、「性悪女ははじめて」というだけあって苦心のメーキャップ。
お歯黒に洗い髪で、切りきざまれた着物姿、目を宙にうかせての狂女ぶりに伊藤監督も、「玉緒ちゃんの新芸域だ」と大満足のてい。
○・・・中村はこの前に、『源太郎船』(渡辺邦男監督)がアップしたばかり。この中では“地”で行く純情娘をやり、しかも渡辺監督の早撮りだったのが、一転しての悪女。しかも伊藤監督は、慎重な演出で知られているので最初は、「こんなに異質の役なんてはじめてで」ととまどいぎみだった。
それでも最近目立って“大人”の芸に立ち向かって行く中村は、呼吸ののみこみ方も早い。“本番一回”で見事な新境地を開いた中村は、「なんでもやりたいけど、ファンの人たちがこの役をどう思うかしら」としきりに気にして、“地”は純情なところをみせていた。(写真は形相もすさまじい狂女ぶりをみせる中村玉緒)
(日スポ・東京版 06/14/60) |