大映のお盆映画『切られ与三郎』は、昨年『弁天小僧』でヒットを放った伊藤大輔(脚本・監督)と市川雷蔵のコンビでちかく撮影開始の運びとなった。

 『弁天小僧』と同じくカブキの名狂言によっているが、脚本は与三郎をめぐる四人の女を設定して、独創的なストーリーを繰りひろげている。クランクを前に、二人に“切られ与三郎”対談をしてもらった━。

 雷蔵 与三郎がつぎつぎと女に裏切られてゆく構成が、たいへんおもしろいですね。

 伊藤 なにしろ原作は、例の源冶店(げんやだな)のあと、与三郎が鎮西八郎為朝になるという荒唐無稽の筋なので、ストーリーをこしらえるのに骨を折りました。けっきょく「与三郎色ざんげ」になりましたが・・・。

 雷蔵 四人女が登場するのですね。

 伊藤 お富のほかに、ヤクザの親分のメカケにされたお恵、女カブキの座長の綾女(あやめ)、与三郎の義理の妹おきんがからんでゆきます。女に肩すかしばかり食っていた与三郎が「裏切らなかったのはお前だけだ」と、舌をかんだ義妹を抱いて、海に入ってゆくのがラスト。霧の深い夜で、御用ちょうちんが取り巻いているんです、

 雷蔵 伊藤先生らしいロマンチシズムで、悲壮美にあふれた情景ですね。ところで、源冶店の場面はどんなふうに?

 伊藤 『弁天小僧』では劇中劇みたいに、浜松屋の一幕を舞台そっくりに居れましたが、もうあの手は使えません(笑)しかし、源冶店をはじめ、芝居の名場面、名セリフはほとんどストーリーのなかに消化して使ったつもりです。

 雷蔵 流行歌にまでなった与三郎の名セリフですからね(笑)。源冶店の与三郎のお芝居は、オヤジさん(市川寿海)に教えてもらいます。カブキ時代にぼくはやっていませんから。

 伊藤 ぼくも「切られ与三」ははじめてなんだ。それだけにファイトがわくね。

 雷蔵 手まり歌がとても印象的ですね。

 伊藤 いろんな民謡をミックスして、ぼくが作詞?したんだが・・・。 七ツ八ツのころから与三をしたっていた義妹のおきんの恋心と与三の郷愁とを象徴してみたつもりだ。

 雷蔵 与三は新内流しになっているんで、そのほうのおけいこもたいへんですよ、邦楽総ざらいみたいに、名曲がジャンジャン入っていますからね。

 伊藤 余談になるけど、木更津にシナリオ・ハンティングしたら、切られ与三の墓や蝙蝠安の墓まであったのにはおどろいた。

 雷蔵 とにかく、伊藤先生とはひさしぶりのお仕事だし、大いにがんばりますよ。 (西スポ 04/29/60)