雷さんの愛犬、リボンちゃん
客間に通され、静まりかえった中から急に、可愛いい鈴の音をさせて顔を出した小犬。リボンちゃんです。今日は最近、雷蔵さんのお家に来たばかりのリボンちゃんにいろいろ聞いてみる事にいたしました。彼女は目下、雷蔵さんのマスコット、喜んでお相手して下さいました。
〜初めまして。私リボンという名前ですの。もう皆様御存知ですわね。雑誌にでていましたでしょ。私が若尾さんのお家にいた事。こちらに来てからは、躾が大切だとそれはそれはきついんですの。外を歩いて帰って来ると、私をさかさにして足を拭くんです。男の人ってらんぼうですねェ。それに目下の所、将来に備えて美容食を実行させられております。雷蔵さんの云いつけで。でも雷蔵さんは、朝お出かけの時は、私を背の上にのせられて、車の所まで行きます。毎日の様に・・・。
私もまだ来たてでしょ。ですからいろいろわからない事だらけですの。女中さんは一切、雷蔵さんの身のまわりのお世話をしませんので、不思議に思っておりますと、これは歌舞伎の時のしきたりがそのまま残っていて、男の方が一切やられる事がわかりましたの。それに雷蔵さんの朝の寝起きは大変いい方ですが、何時に起すように云われて、それより早く御自分は目がさめていても決して起きてこないで、待っているんです。それにお食事の時間はまるで汽車の時間の様になるんです。なぜですかって?それは、ご自分で云った時間が一分でも違ってもいけないからですの。え?怒った事ですか。私はよく怒られますが、あんまりみません。怒るのにもユーモアがあるんです。「散髪に行って頭がさっぱりしたから、ぽーっとなって忘れたんやろう」なんて・・・。
怒ると云えば、今雷蔵さんのお家に居候している本郷のお兄ちゃま、ごめんなさいね。お兄ちゃまを居候だなんて・・・雷蔵さんはよく前においてお説教されるんです。お兄ちゃまもこの頃はだまって下を向いています。頭の上をお説教が通っていっちゃうのかしらねェ。お兄ちゃまのお母様が「今どき、お願いしても泊めて下さる方はいないのに雷蔵さんは心よく泊めて下さって、感謝しているんですよ」とおっしゃっておりました。
又、野球の試合があったりすると、帰りには二軍の人達まで連れて来て食事をなさいますが、私は小さいし、お手伝いも出来ずウロウロしていますが、女中さんは大変です。沢山の方のお食事の用意で・・・、お出でになる方は全部男性ばかり。中には泊りに来られる方もいて、お玄関を入るなり「僕のパジャマは」なんてあつかましい方?もいるんです。それも、これも、雷蔵さんが気がおけない方で大変世話好きですから、きっと皆さんも心やすくなられているんでしょうねと私は思っているんです。
そうした忙しい女中さんに対しても、それは気をつかわれまして「家は時間が朝早かったり、遅かったり不規則やから、寝られる時に寝ておきなさい」と云われるのを聞きますが、女中さんは私の頭をなでながら「坊ちゃん、あない云われるけれど、気つこうてくれると余計寝ていられんなあ」と・・・ほんとうに思いやりのある方ですね。そうそう子供好きな事も有名ですの。いつでしたか、撮影所の方達の子供さんを自動車に大勢のせてまつたけ狩≠ノいらっしゃった事があったそうですが、幼稚園の先生の様で、その時の雷蔵さんの嬉しそうなお顔ったらなかったそうです。この間ご近所のお子さんが遊びに来られた時も、子供といっしょになって大ハシャギ。そのにぎやかな事、子供と同じ気持になって雷蔵さんも遊んでいられるのを、丁度迎えに見えたお母様がそんな雷蔵さんの姿をみられておどろいていらっしゃいました。
なにか雷蔵さんに関してはいい事ばかりですが、これも仕方ありませんわ。ほんとうなんですもの。雷蔵さんは、人がこういう事をやれば体が丈夫になるとか、こんなものを食べればふとる、等と聞かされると、その全部をやってみるんです。実行力もたいしたものだと思いますわ。もの事は得心のいくまでだれにでも聞くんです・・・それも大いにいい事だと思います。
でも一寸困る事があるんです。これは内緒のお話ねェ。雷蔵さんは動物を犬でも猫でも、鳥でも魚でも差上げます。と云われるとなんでももらって来る事ですの。それも三日坊主と云うんですか、世話役はいつのまにかお家のだれかの手に渡ってしまうんです。先日もシェパードをもらうと云いはって、遂にお家の皆さんに反対されて断念したようです。まだ幾日もたっていない私ですが、雷蔵さんの毎日毎日のいろんな事を見たり、聞いたりしておりますと、ほんとうにいい方の所にもらわれて来て幸せだなあと思うと、余計のびのびとお部屋と云わずお庭と云わず飛びはねているんです。
雷蔵さんがお仕事からお帰りになれば又、私は最高のレディーになるための教育をうける事になっておりますの。では皆さん又お目にかかりましょうね。〜
ピンクの大きなリボンをつけたリボンちゃんは、又自分のお部屋?に帰って行きました。ほんとうにお疲れ様。リボンちゃんの語ってくださった雷蔵さんの事、いかがでした?では私達も鳴滝のお家におわかれする事にいたしましょう。(よ志哉24号 61年7月28日発行より)
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