(写真は対談中の比佐氏と市川雷蔵とやくざに扮した雷蔵)
激励したり・されたり対談
でかした雷蔵”の一言を
比佐: 君は股旅もの、はじめてなんだって? 雷蔵: ええ、映画ではもちろん、歌舞伎ではやくざものはやりませんから。 比佐: やくざはイヤかい? 雷蔵: そうじゃないんです。希望はもってたんだけど、会社でやらせてくれなかったんです。 比佐: ボクは国定忠治は七本書いたが、板割りの浅太郎の主演は初めてなんだ。しかし別の意味でもこの脚本は非常に苦労したんだよ。君がもう五、六年すればわかってくれるだろうと思うが・・・それは千恵蔵さん、右太さん、長谷川さんなどの三十年選手には理屈にあわない、説明のできないボリュームがそなわっているが、正直いって君にはまだそれがない。 雷蔵: よくわかります。 比佐: たとえばセリフ一つにしても、あの人たちのを君がやると子供が大人のセリフをいっているようだよ、だからこの作品ではとても柔かく、いかにも純粋な“坊ちゃんやくざ”を描いてみた。それが興行価値であるとボクは思っている。しかしそれだけでは君の颯爽さがないから、おみよ(嵯峨)との出会いにそれをだすようにしている。ところで、この脚本でわからないところとか文句があれば、構やしないからいってみたまえ。 雷蔵: いやなんにもないです。ボクは、撮影前にはその役柄についての考えを人にいわないことにしているんです。すべてをでき上った作品で批判してほしいからで、あんなこといっておきながらぜんぜんなってないじゃないか、なんていわれるのがイヤで・・・。 比佐: うん、わかるよ。その反対の場合もあると思うが、まあいわなくとも難しいところはちゃんとわかっているよ(笑)。・・・君は舞台は女形ばかりだったの? 雷蔵: いや半分ずつくらい。 比佐: スタッフが女形のくせが抜けていないと心配してたよ。足元がまだきまらないって・・・。 雷蔵: 自分自身では少しも感じてないんですが・・・。 比佐: これは大切なことなんだ。千恵さんはガニ股だけど扮装して歩けばピリッとするだろう。あれには十何年の苦労と工夫がある。はじめてのやくざでも、そこになにか工夫すれば立派な浅太郎ができるよ。それにもう一ついいたいことは、時代劇は体だということだ。君の丈はどのくらいかね。 雷蔵: 六寸(六寸のわけはない。五尺六寸という美丈夫と記したものもあり、多分五尺六寸とすべきところを五尺が落ちているものと思う。大体170センチくらい。)近くあります。体重は十五貫五百(58.12キロ)くらいです。 比佐: 背はそれで十分、あとは運動して横幅をつけることだね。そしてもう三、四年もすればすばらしいよ・・・話が前後するけど、忠治親分の前の芝居、あれは君が小ものになっても大ものでもいけないんだ。そこをよく理解してくれたまえ、それに勘介の親父を斬るところ、あそこは見せ場だから、そのつもりで・・・。
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