雷蔵が映画に出だして、もうかれこれ五十本近くになる。『炎上』でドモリの学生役を見事にやってのけて以来“雷蔵株”はこのところ上り気味だが、目下伊藤大輔の『弁天小僧』に主演、続いて新鋭増村保造監督初の時代劇『好色一代男』にも主演が決まった。
彼が演技的にしっかりしてきた転機の一つは故溝口健二監督の『新・平家物語』で青年清盛をやったときからだ。つづいて第二回の転機は市川崑監督の『炎上』でではじめて現代劇に出演したことだ。三島由紀夫の小説「金閣寺」の主人公の学生になるために彼は坊主頭の素顔になった。こんな役で現代劇に出るのは、彼の人気にさしさわらないかと関係者中には心配した向きもあった。しかしだれよりも雷蔵自身が、一年前からこのシナリオを読んでやりたいと考えていたということで、本人の熱心さもあってこの出演が実現した。
市川崑流のひねりもあって、むつかしい役ではあったが、彼としては予期した以上によくやった。結局マイナスどころか、時代劇の中で固形しかけていた彼に対するイメージの幅を押しひろげる結果になった。
目下撮影中の黙阿弥原作の『弁天小僧』(八尋不二の脚本)ではカブキ的な華やかさの中で、例の有名な「浜松屋」のユスリの下りがやはり見せ場であろう。はじめは処女のごとく女装して物静かに現われた弁天小僧が、最後には「知らざァいって聞かせやしょう」とケズネを見せてタンカを切るところだ。つまりは講談調のものではあるが、江戸末期のチンピラ不良の生態という観点もふくめてのことを、ベテラン伊藤大輔が一年ぶりに監督するというのが食欲をそそる。
この後、来年早々の野心作として西鶴の『好色一代男』(依田義賢の脚本)をやることにきまった。この監督には雷蔵自身が是が非でもと希望しているように、最近新鮮な感覚をもってのびてきている三十代の新鋭監督増村保造が時代劇のカベをどう破るか、増村−雷蔵の“組合せ”が注目される。(10/15/58)