清 盛 と ニ ク

 雷蔵さんは体がキャシャなので、当時の武骨な体の感じを出すために、扮装に苦心した。サラシを腹に巻いたり、肩へ綿を入れたり、−で溝口監督に見て貰ったところ、

 「こんなにやたら巻いたり、つめたりしても、身についていないからブクブクになるだけで、芝居の関取千両幟に出てくる相撲取りみたいでダメだ」と云う。

 衣裳係を呼んで「雷蔵君の裸の写真を撮って、生理学的に研究して、体と肉と同じものをつけなさい」と云う命令である。

 衣裳係も頭をひねって、ゴムのスポンジで苦心のニクを作りあげた。これを体の要所要所に入れ、或いは衣裳に縫込み、着込んだから暑いこと夥しい。で、またまた溝口監督に見せに行ったところ、今度はニクをつけすぎて、体と頭のツリ合いがつかなくなってしまった。折角作ったニクもまた、とりはずして、今度は

 「牛肉を食うんだね。本物の牛肉をうんと食ってニクをつけなさい」−おかげで雷蔵、『新・平家物語』開始以来、毎日自宅で懸垂運動をしながら肉食ばかりつづけている。「こう毎日ニクばかり食べてると、見るだけでニクたらしくなるネ」は御尤も。

 源 平 政 略 結 婚

 雷蔵の清盛の妻の時子役には、久我美子が決定した。映画スタアとしては勿論久我の方が大先輩なのだが、彼女も王朝ものなんかに出るのは初めてだし、まして、人妻役なんて、あまりやったことがない。雷蔵の方も今迄独身役ばかりで、夫の役なんて初めてである。

 「あのころの夫婦生活なんて一体どんなものなんだろうね」

 「ラブシーンだって、どういうふうにしたんでしょうね。見当がつかないワ」

 「ケイケンが無いんだから弱っちゃったね」

てなことが初対面の御挨拶である。

 それからいろいろ話し合ってみたところ、久我ちゃんの方が、雷蔵より三ヶ月ばかり年上のことがわかった。

 「それじゃ、あなたはお姉さんじゃありませんか」

 「でも、年上の奥さんは、旦那さまをとても大切にするというわよ」

 それから、なおも話し合ううちに飛んでもないことが判明した。

 久我ちゃんは清和源氏三十六代目の子孫であって、久我ちゃんの先祖は『新・平家物語』の時代には、平家の人達を相手に大活躍をしたに違いないというのである。

 「だから、雷蔵さんは私にとっては敵方よ」

 「ギョッ!」

 久我ちゃんの先祖も、まさか子孫が昭和の御代に平清盛と結婚するようなことになろうたア、お釈迦さまでも−いやお墓の下からでもご存じなかったことでありましょう。