宣伝のむずかしさ
司会: 会誌で「大映に聞く」と題して前に京都撮影所企画部からお話をうけたまわったんですが、その後会でもいろいろ宣伝について話題が出たり、又雷蔵さんとの座談会でも話が出たりしたので、今回はその宣伝の大元締の大映本社宣伝部よりお話をうけたまわりたいと存じます。始めに大映宣伝部の機構を御説明願いたいのですが。 人見: 林君から説明してあげて下さい。 林: 東京と京都撮影所に宣伝課があって、いわゆる製作宣伝を担当しています。そして本社と各支社は営業宣伝を行うわけですが、本社がそれを統括します。機構的には大ざっぱにいってそんなところです。それよりこちらからお聞きしたいのは、雷蔵さんとの座談会で宣伝の話が出たそうですが、どんな話だったんですか。 人見: そうね、参考のために聞きたいですねェ。 司会: 先号の会誌に出したんですがまあ他社からくらべると大映は宣伝が下手なんじゃないか、どんな良い作品でも宣伝の力ひとつで見に来る人も左右されるのに、出来上がって三日位で封切ったりするのではだめで、作品を売る窓口は宣伝にあるのですから相当しっかりやってもらいたいというような話が出て、雷蔵さんは自分は俳優だから聞いてもどうにもならないが、そうした皆さんの声が一番大切なんだから、聞かせてやって下さいとおっしゃったんです。それで、担当の方々に聞いていただき、又こちらも納得の行く様うかがおうと思ったわけなんです。
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人見: そういわしめた一番の大きな原因は『破戒』の封切の問題でしょう。あれは宣伝部も困った。市川崑氏の宣伝に対する考え方というか不満が、雷ちゃんに素直に伝わってそういう発言になったんだと思う。しかし、これは宣伝の巧拙とは無関係ですよ。つまり営業宣伝の期間がなかったわけですからね宣伝部としては責任のとりようがない。崑氏もあの封切を前提としてスタートしたんですよ、ですからそれをはずして封切を延ばせといっても、会社としてはこまるんでね。あの時の事を標準にされてわねェ、又雷蔵さんが困るというのは配給上のテクニックをもう少し余裕を持ってという事でしょうね。それに間に合わなければ何かほかの作品を出して、その間宣伝をしてはといわれても会社には会社の苦しい所もありまして・・・ね。そういう例外をのぞいて、宣伝のテクニックだけを考えれば新聞広告にしても、対ジャーナリストの関係でも決して劣っていないと思いますがねェ。 |
伊奈川: 東京都京都の撮影所の宣伝と、本社の宣伝と三本立のように感じますけど、その中で一番主なのは本社の宣伝ですね。
人見: そうですね。
伊奈川: そうしますと、一本の映画を作っている間に宣伝しなければならないわけですから、本社から全面的に働きかけるんですか。
人見: それはねェ、月に一回全国宣伝会議がありまして、東京都と京都の撮影所の宣伝が製作宣伝に関する資料をもって集まり、各ブランチつまり、北海道、名古屋、大阪、九州、関東の宣伝課長が寄って、そこで基本的な事を全部決めますが、もちろんその時はクランク前で、本をみて作品の売り方を決めるわけで・・・、一番大きなキャッチフレーズも決めます。永田専務が議長をつとめて進行します。そこで決定した事が全国を縦断しましてね、同じ作品を同じ線で売るわけです。ただし、新聞広告だけは各ブランチで責任をもします。スチールは本社が決めたものを使用しますが、ブランチごとで使い方が違いますが・・・。
伊奈川: 宣伝部はどのくらいの人がいるんですか。
人見: 三課あわせて三十人位です。本社関係で一番重要なのはポスター、広告の作成、次がジャーナリスト対策。広告はお金で買えますが、ジャーナリスト関係には、たえず話題をまき起す事ですね、ですから社長はほんとうの宣伝は、お金をかけずに宣伝する事だといっているんですよ、まあ雷蔵さんの様なベテランはともかく、新人を売り出すのには、ジャーナリストの協力が必要になって来るわけです。
角田: そうしたジャーナリストの働きかけは、大映さんはおっとりしているんじゃないですか。
人見: いや、上の方の人が熱心でしてねェ、毎日の新聞をみて、他社のが載っていて、うちのが載っていないと「お前達なにしているんだ」と云われるんですよ、ですから林君なんか息も抜けないですよ。
角田: これは営業の方かもしれませんが、東映なんか、これが絶対に見せずにはおかないというやり方をやっているようですね。
人見: 東映さんですか?いやそんな事はないでしょう。
角田: お客をなにがなんでも劇場に集めるというねェ。
人見: 気迫ですか。
角田: がめついというんですか、社員一人に前売をもたせるという・・・。
人見: それは特殊な作品だけですよ。うちでも『釈迦』などには力を入れて、前売りで記録的な数字を出した。今度は『秦・始皇帝』の前売が始まりますのでよろしくお願いします。(笑)
一同: (笑)
人見: うちでやる作品と、東映さんでやる前売ではスケールが違いますね。
角田: 大映としては、『破戒』とか『私は二歳』とか見る人は見るけど一般的じゃないですね、一寸ハイクラスのものは、なにがなんでもという、いい作品はお客を集めたいものですよ。
人見: いい事をおっしゃると思いますよ。例えば『私は二才』の様な作品は宣伝部の力が大きくものを云う作品です。
角田: そうですねェ・・・それにかけるべき所にお金をかけない様に思いますね。
人見: でも『破戒』は大変お金がかかっているんです。
角田: あれでですか(笑)
人見: 近頃では最高でしょう。それだけ期待もしてやったんですよ。
小木下: 素人が見ると結果的にはお金がかかっているように見えませんでした。
角田: 宣伝期間が短すぎたわねェ。
人見: 宣伝期間というより、試写をしなかったりしたので話題が少なかったんですよ、つまり重要な口宣伝がなかったんです。これが出来なかったのが一番の原因でしたよ。