恋人と夫婦の愛情をどのように表現するか
『新・平家物語』で、はじめての夫婦役を演じるお二人に、撮影の合間を見て、いろいろ語っていただきました。
お腹に響く声
雷蔵 久我さんと初めてお逢いしたのは、“映画ファン”の編集部でしたネ、ほら、編集部の隣の書斎みたいな所で・・・。
久我 雷蔵さんは、勝新太郎さんとご一緒に、挨拶廻りをなさっていた時ネ。
雷蔵 そうです。久我さんはそれまで大映の専属スタアだったのに、僕が大映に入る頃には、フリーになっちゃって居て、淋しかったですヨ。
久我 あら、お上手ネ(笑)
雷蔵 溝口先生とは初めてなんですが、他の監督さんとは随分、感じがちがいますネ。なんとなく圧倒れるような雰囲気がある。
久我 そうですネ。別に、これってコワイことはないのに、なんとなくネ。
雷蔵 久我さんは溝口先生と今迄何回かお仕事しているんでしょう!?
久我 ええ、『雪夫人絵図』と『噂の女』の二本。
雷蔵 じゃア、溝口組の大先輩だ。ひとつ宜敷くお願いします。
久我 ハイハイ、内助の功は妻の役目ですから。(笑) 溝口先生のお仕事って云うと、すぐ思い出すんですけど、此の前の時もやっぱり夏でネ。それも七月から八月という暑い盛りに、私お腹をこわしちゃって、ひどい下痢をしてたんです。それを我慢してセットに入ってたんですが、どうやらこうやら、押さえている腹痛が、溝口先生の“用意ッ!”という声が掛かると、トタンにシクシク痛くなってこまっちゃった。
雷蔵 分る、分る、先生の“用意ッ!”という声は、健康な者でも腹にビリビリッ、と響きわたるもの、凄い気合ですよネ。
久我 でも、今度の『新・平家物語』じゃ、まだ助監督さんが声を掛けているので、割に気分が楽なんじゃないですか。
雷蔵 ええ、でもやがては、ビリビリッとお腹に響きわたる声が掛かるようになるでしょうネ(笑)
久我 先生は良いことはどんどんとり入れますネ。この間の『楊貴妃』の時、多摩川ではセットの片隅に小部屋をつくって、衣裳にアイロンが直ぐかけられるようになっているでしょう、それがこちらには無いものだから、今日たまたま白河上皇になっている柳永二郎さんの衣裳が雨に濡れて、シワになっているのを見て、多摩川みたいな準備をするように・・・っておっしゃってたワ。
扮装のむつかしさ
雷蔵 溝口さんは扮装にとても凝っていますネ。
久我 そう、私も聞いたワ、大崎史郎さんのことでしょう!?(笑)
雷蔵 坊主になれって云うて、頭を苅らして、坊主になったら今度は、パラリと髪をたらしたほうがいいと云ってヅラをのせ、鬼のように見えなきゃイカンというので、大崎さんがツメの長いのをつけたら、そのツメ要らんと云うて取ってしまい、大体が毛の薄い大崎さんに、毛むくじゃらにせいと云って、胸から腕、脚などに、いっぱい毛を植えさせたりしてネ。
久我 この暑さじゃたまらないでしょうネ、全身にそうベタベタ毛をくっつけちゃア。
雷蔵 でも大崎さんは熱心なひとだから平気な顔をして、よくやってますネ。もっともうちのセットは涼しいけど・・・。
久我 そのうえ眼も半分つぶしているんですものネ。
雷蔵 その鬼みたいな坊主が燈篭に灯をともして廻るのが役目の坊主でサ、雨の日に、遠くからこの姿を見た白河上皇が、妖怪と見間違えて、家来の者に斬らせようとするのやけど、その鬼さんが灯を入れる燈篭が、溝口さん一流の凝りから、八坂神社とソックリの国宝級のものを借りて来ているでしょう、だからキズをつけたら大変や思うて、ガタガタふるえると云うんですネ。
久我 妖怪の方でふるえてちゃ仕方ないじゃないの(笑)
雷蔵 久我さんの扮装テストはまだなんですか!?
久我 昨日撮ることはとったんですが、OKにならないんです。私の顔って、おすべらかしが似合わないんですよ。林成年さんのはみんな良かったですネ。それから雷蔵さんも・・・、眉は描いているんですか!?
雷蔵 濃くて中々いい眉でしょう、これはメーキャップの秘密なんですヨ。