映画にほれて

聞き書き 田中徳三監督

◆シナリオ◆

  「脚本ができ、配役が決ったら、そのシャシンの成否は80%きまる」

 市川崑監督の名言です。脚本は大事です。シナリオの文体は文章とはいえません。簡潔にして明瞭。必要なことしか書かれていません。それを基本に監督はイメージを膨らませます。たとえばわずか二行でも、10分の映画にしようと思えばきでます。

 初稿ができても、監督はいろいろと注文して、たいてい二、三回は作り直しました。ひどい時には五回も。封切り日の都合で、決定稿が完成しないまま撮影に入り、手直ししながら撮ることもありますが、まず、いいものはできません。なんぼ手を入れて頑張っても、40点のシナリオはせいぜい60点にしかなりません。

 私の話はこれくらいにします。なんでも質問してください。

 - (映画人の心得として)映画ファンなであればいいと思っていたが、授業で講師から「作り手になれ、ファンではだめだ」といわれた。どう思いますか

 田中監督 映画が好きで好きでたまらん。ということは大事です。大道具さん、照明さん、役割はそれぞれ違うけれど、映画が好きや、という点は一緒。好きでなければ続きません。

 -  照明技術について悩むことが多いので、アドバイスを。

 田中監督 照明だけでなく、映画づくりではいろいろな経験と時間が必要です。(映画やテレビ会社に)入社しても、いきなり責任ある仕事を任せられることはまずない。僕にいわせりゃ、君たちは映画人になるための最初の階段さえ、まだ足が乗っかっていない。私も(監督として)一本撮れるまでに12年かかったんです。とにかく意欲を持ち続けなさい。

 -  演出での要点を。

 田中監督 作品によって演出スタイルは変わります。雷ちゃんの作品でも“濡れ髪”と“眠狂四郎”ではシリーズによって全然異質。大事なのは脚本をしっかり読んでテーマをつかみ、そこにポイントを持ってくることです。

 -  脚本を助監督時代に書かれていたのでしょうか。

 田中監督 監督になるためには、会社に認められければなりません。大映では、面白い予告編を作るか、いい脚本を書くことで監督昇進を目指しました。松竹でもいい脚本を書けるかどうかが重要視されていたそうです。私も何本か書いて、当時の所長だった川口松太郎さんに持っていきました。採用はされませんでしたが、とにかく、書く事は大事なことです。

 -  撮影を手伝った時、なんて地味な仕事なのかと思いました。想像していたような派手さがなかった。

 田中監督 現場ではびっくりするようなことがたくさんあると思う。この世界は、現場で勉強することが大事です。こう言っちゃなんだけど、こんな話を10時間、100時間聞いても実際の役には立たない。現場で貪欲に学ぶことです。「なぜそんなレンズを使うのか」とかね。遠慮なく尋ねたらいい。

 水をさすわけではないが、君たちは大変だと思う。私は会社の金で映画づくりを学び、49本も撮れた。今では、よくやっている監督でも二年に一本しか作れない。でも、悲観することはない。プロになりたい、という気持ちを捨てずに頑張ってください。