市川雷蔵特集号に

 時代映画十月号を拝見しました。私は別に特に雷蔵ファンというわけではありませんが、特集記事は大変興味深く読ませていただきました。

 特に、雷蔵座談会の中で、雷蔵の人生哲学?は、人気に溺れない、しっかりした人生観をもつ雷蔵の横顔がのぞかれて、大変面白く思いました。正直言って、スターという人は、大勢の人に、チヤホヤされて多かれ少なかれ、天狗になっているのではないかと、勝手に想像していただけに、雷蔵の謙虚な言葉を聞いて、非常に感心しました。こういった、謙虚な言葉、素直な人生観と云ったものは、なかなか、ジャーナリズムには取り上げられないようです。同人誌の時代映画ならではのことと思います。これからも、同人スターの特集が出るそうですが、こう云った、マスコミには乗らないような本当の素顔と云ったものに触れてこそ、特集の意義があると思います。

 案外つまらなかったのは、雷蔵のプロフィールで、宣伝の方の書いた文は、相当辛辣で面白かったのですが、外の人は皆ベタほめで − もちろん、雷蔵という人はそういう人だということはわかりますが − 同じようなほめ方なので、もう少し、注文というようなものがあれば面白かったのにと残念です。

 また助監督の方々も、ほめてばかり、ほめてばかりでテレている面もあったようですが、現場で接していればもう少し、なにかあるように思うのはひがめでしょうか?でも大変結構な面白い話でした。評論家とか、なんとかの先生より、こういった現場の方の発言は大変面白いものです。特集号に限らず、今後も、こういった座談会なり、企画を出して下さるよう注文します。

 最後に、一つ疑問に思ったことですが、表紙に、雷蔵研究となっているのに、どこにも研究らしい面がなかったことです。ただの特集号なのに、研究号と銘うつのは、羊頭をかかげて、狗肉を売ることになるのではないかと思います。一考を願います。妄言多謝。(「時代映画」60年11月号“読者のページ”より)