成年 雷蔵さんの馬はウマいですよ。僕も京都へ来てすぐ馬を習いに行きましたが、もうその時雷蔵さんは得意で早駆けをやっていたくらいですからね。でも、もう少し早く来ておれば、馬から落っこちるところも、見られたらしいんだけど・・・。(笑声)
雷蔵 そんな血の滲むような・・・
久我 (すかさず)白状しましたね(笑声)
雷蔵 いや、とにかくそんな苦労をしたのに脚本が変って、馬のところはなくなったらしい。
成年 ええ、しかし、お互いに何かのプラスになりましたがね。
久我 じゃ、弓の方は?
雷蔵 弓・・・。勿論引けますよ(と自信たっぷり)
成年 でも、恰好だけでなしに、的に当るの?
雷蔵 (笑って)失礼なことをいいますね。勿論じゃないか。
成年 的でなしに、傍に居る人に当ったりしない?
雷蔵 うん。最初はね。(笑って)射ったと思ったら、矢がビヤッと横の方へ飛んでいったけれど。(笑声)
久我 それでいまどのくらいの距離でおあてになるの?
雷蔵 そうですね・・・。(と、考えて)一間。(笑声)また、扮装テストの話になりますが、僕が瘠せて見えるので、溝口先生からもっと身体に肉をつけろといわれ、衣裳の下へ芝居の肉を着込んで行ったら「胴体ばかりがふくれて、まるで芝居の『関取千両幟』だ。(笑声)もっと、解剖学的な、本当らしく見える筋肉をつけなくては駄目です」と、いきなり叱られちゃった。
それで、いろいろ考えて、スポンジ、ネル、綿といったもので、胸、腕、胴といlった具合に、筋肉を、いろいろ作ってみましたがね、宣伝スチールの前に、もう一度先生に見てもらいに行くと、「ここの肉がいけない、これもとりなさい」で、結局、全部肉をとってしまって見せたら、「それでよろしい」(笑声)・・・
僕ばっかりしゃべらせないで、久我さんも何か云いなさいな。
みわ註)「一間」柱と柱のあいだ。六尺。約1.82メートル