山本富士子が七変化の大活躍を見せる大映の正月映画『人肌牡丹』(監督森一生)が製作を急いでいるが、このほど洛西二尊院の境内で山本の立回りシーンの撮影が行われた。

 このシーンは、山本扮する深雪の義理の妹加賀藩の幸姫(岸正子)が、病気の兄利秀の代参として菩提寺へ参拝の途中、悪臣たちに襲われるが、この危機を知った深雪が、虚無僧姿に変装して救いに駆けつけ、さっそうたる立回りを展開するところ。

 洛西嵯峨の名刹二尊院の境内のゆるい坂道、日に映えた紅葉の木立を背景に幸姫の行列が進んでくると、突然木かげから黒覆面の一団が襲いかかる。と見る間に天蓋を空に飛ばせて虚無僧姿のお富士さんが登場。当るをさいわい悪臣どもの一味を切り倒してゆく。『人肌孔雀』いらい殺陣には一段と進境を見せているお富士さんだが、思わず気合が入りすぎて相手の胴や頭にコツンと刀をぶっつけ、「アラ、ごめんなさい」の連発。一カットごとに衣装の崩れを直しては「イザ、参れ」にはスタッフ一同大弱り。撮影はそれでも森監督から「いや、しばらく見ぬ間に、みごとなお手のうち」とほめられていた。

(サンケイスポーツ 58年12月3日)