山本の鉄火女姿 |
大映京都では、今年の夏、森一生監督に山本富士子、市川雷蔵の顔ぶれで製作した『人肌孔雀』の好評に気をよくし、正月映画としてふたたび同じトリオで『人肌牡丹』(スコープ・カラー)の製作を決定し、東京作品『白鷺’を撮り上げた山本富士子を迎えて、このほどクランクインした。 七変化で鮮やかな殺陣 なまめかしい鉄火女姿 『人肌牡丹』は白雪の加賀連山を背にした加賀百万石の城下へ単身乗り込んだ江戸の町娘が、まだ見ぬ弟妹、つまり悪臣たちの陰謀で危険にさらされている城主弟妹を救うために超人的な七変化の活躍をし、遊び人風のナゾの男に助けられ見事に陰謀を打ち砕くという前作の『人肌孔雀』と大同小異の話。 ヒロインの山本富士子は小姓頭巾振ソデの若衆姿の男装を始め、かれんな町娘、天ガイ姿の虚無僧、牡丹のハダの鉄火女、妖えんな踊りの師匠、高貴な姫君、連獅子の子獅子など文字通りの七変化で殺陣と歌と踊りを見せるわけだが、市川雷蔵は前作の浪人に変って遊び人風のナゾの男(実は幕府目付役)で登場し、山本富士子にからむといった趣向となっている。 賭場でタンカを切る雷蔵 『人肌孔雀』は“大映の時代劇は理屈っぽくて・・・”という有難くない定評を破るために、山本富士子の魅力のすべてに合わせてシナリオを作り、徹底した娯楽作をねらったものだが、今度も前作の欠点を補いながらシナリオが書かれただけに、ストーリーに前作ほどの無理がないということだ。 この日のセットは、女やくざ緋牡丹のお雪(山本富士子)が、賭場で勝ち続けるのをじっと見ている人入れ稼業の輪島屋嘉七が、お雪の体に悪心を抱き、お雪にサシの勝負で百両と体をかけさせる。これを寝転んでながめていた十六夜の源三(市川雷蔵)が、嘉七のサイコロのイカサマを見抜き、色めく嘉七の子分たちを軽くいなして引揚げるというくだり。 牡丹とコイをあしらった衣装まとい、鉄火女の意気を示す山本富士子が片ヒザ立て、エン然と笑いながらサイコロを振る姿はあだっぽいそのもので、掃き溜めに鶴といった風情だった。一方の市川雷蔵も、美剣士の魅力とは趣きをかえて粋な遊び人に身を作り、小気味のいいタンカを切ってさっそうたるやくざぶりを見せていた。 (日刊スポーツ 58年11月15日) |