“名悪女”ぶりでは定評のある野川は開口一番「必要なら全裸もいとわない・・・というのがわたしのモットーです」といったものだ。このことば、このほど行われた撮影で実証された。といってもセミヌードだったが・・・。ある飲食店でラーメン二杯をペロリとたいらげた野川いざ勘定という段になり、さいふのないのに気づく。店の主人に無銭飲食呼ばわりされた腹いせに、セーターをパッと脱ぎ、スラックスのジッパーを勢いよく下げて「身ぐるみ脱いでやるから質屋に持ってゆきな。ラーメン二杯分ならオツリがくるよ。フン」と張ち切れそうな胸をブルンブルン。野川の独壇場ともいうべきセミヌードシーンでもあったが「やはり彼女に出てもらってよかった」と雷蔵。
これがきっかけで彼女と雷蔵が近づき、物語りも色気を増して発展する。野川は肉体を武器に「いままでの悪女役の総決算のつもりで体当たりを」と赤い気炎をあげるが、この殺し屋はとんと女には食指を動かさない、ジェームズなんとかというアクションのヒーローとはちがう面もあるわけで、ここらあたりにサスペンスとストーリーでみせようという増村保造監督と新進シナリオライター石松愛弘の共同執筆の苦心のほどがほとばしる。雷蔵も全力投球である。
ピストル、ドスも無用
濃淡のブルーで主人公浮きぼり
いままでの殺し屋というのは、やたらスゴむのがつね。この作品の主人公のように、静かな男は珍しく、それだけに、森監督と雷蔵も慎重な打ち合わせ。音楽関係者の使う隠語に「ブルーだ」というものがある。「気分がすぐれない」「憂うつだ」「暗い」「陰気だ」という意味だが、この殺し屋に、カゲをつけるため主人公雷蔵の衣裳を濃いブルーに統一し、料理屋の主人、三味線ひきの芸人、サラリーマンと変装させながらも“青衣の殺し屋”の性格を浮き彫りにさせようとするのも話題の一つ。(
中日スポーツより )
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