クールな雷蔵を描いた映画人の熱気

 四月十四日、シナリオ会館で第63回シナリオ倶楽部が開催された。ゲストは石松愛弘さん。映画が58本、テレビが約千本の驚異的な作品本数。その中の一本、市川雷蔵主演、森一生監督の1967年度大映京都作品「ある殺し屋」が上映された。

 主人公・小料理屋の主人(市川雷蔵)は、実は凄腕の殺し屋という裏の顔を持っている。寡黙でクールな主人公は殺し方もクール。針で延髄を音もなく一突き。悲鳴もなく、周囲が気づく頃には姿を消している。何と粋な仕事振りか。歌舞伎や日本舞踊をベースにした時代劇の殺陣とは対極にある、リアルで地味な殺人をテクニックが不気味さを醸し出す。

 鑑賞後、石松さんや藤井浩明プロデューサーから製作の裏話を聞く。

 当初、藤原審爾原作の短編「前夜」を読んだ増村保造監督が映画化を企画、石松さんたちと構想を練り、準備はすすめられたのだが、増村監督は「華岡清洲の妻」を撮ることになり、森一生監督にバトンタッチとなる。しかし、完成した作品は、増村監督の作品と言っても違和感のない仕上がり。説明ゼリフを大幅に削った増村スタイルを石松さんが述懐された。

 勝新太郎が「何故オレに演らさないの?」と残念がった話も面白い。

 恒例の二次会、近所の居酒屋で興味深い話は続き、映画会社が自社製作していた頃の日本映画の熱気を垣間見る夢の一時だった。(北川哲史、「シナリオ」2003年6月号より) 

     

 

 

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