1967年12月30日(土)公開/1時間23分大映京都/カラーシネマスコープ
併映:「座頭市血煙り街道」(三隅研次/勝新太郎・近衛十四郎)
企画 | 辻久一 |
監督 | 池広一夫 |
脚本 | 直居欽哉 |
撮影 | 武田千吉郎 |
美術 | 西岡善信 |
照明 | 古谷賢次 |
録音 | 大角正夫 |
音楽 | 渡辺岳夫 |
助監督 | 黒田義之 |
スチール | 小山田輝男 |
出演 | 藤村志保(青柳君江)、長門勇(昇天斎辰丸)、藤巻潤(水上正信)、坂本スミ子(春野かすみ)、久保菜穂子(葉子)、東野英治郎(青柳竜作)、山口崇(青柳栄吉)、財津一郎(サブやん)、三島雅夫(大杉天道)、北城寿太郎(黒崎勇次)、織本順平(赤松寅吉)、近藤宏(岩造)、五味龍太郎(沢井塾頭)、上野山功一(早坂少佐) |
惹句 | 『同期の仲間に自決を迫られた若親分!絶対のピンチに。起死回生の抜刀術が冴える!』『罠にはまった同期の仕官!仇は俺がきっと取る!千両肌が怒りに燃えて、大逆転の殴り込み!』『一目千両の鉄火の肌に、切ったタンカは海軍仕込み!風をはらんだ喧嘩場で、キラリと抜った白鞘一本!』 |
■ 解 説 ■
「若親分シリーズ」も、こんどの『若親分千両肌』で第八作を迎えるにいたりましたが、来る1968年度初頭の大映スクリーンを飾るに当って、このシリーズの生みの親ともいうべき池広一夫監督(第一作『若親分』、第二作『若親分出獄』、第三作『若親分喧嘩状』)が久しぶりにメガホンをとるところに、まず特筆されるべきものがあるでしょう。
次に、市川雷蔵の極め付きの若親分を中心として、藤村志保が顔役の養女、久保菜穂子がカフェの女給、坂本スミ子が奇術一座の看板歌手、藤巻潤が主人公の旧友の海軍少佐、長門勇が豪傑肌の奇術師、さらにまた東野英治郎、三島雅夫、松竹の山口崇、財津一郎等々、多彩でかつ豪華な顔ぶれは、優に大作二本分のぜいたくさです。
さらに、物語の面白さは、冒頭の若親分が人違いから殺し屋に狙撃されるところより、最後の、辰丸という協力者を得て、軍港の岸壁で、海軍の機密を守って壮絶な殴り込みを展開するまで、数々のエピソードに富んで、文字通り息をもつかせぬスリルとアクションとそして明るい笑いが織りこまれて、まさに正月映画にふさわしい、デラックス版の任侠痛快篇です。
大映レコードでおなじみの主題歌が、今回もまた藤巻潤の歌によって、映画に一段の色調を添えるのは、いうまでもありません。
■ 物 語 ■
南条武は宇島市への途上、栄吉という男と人違いで、人力車の中から狙撃され殺し屋たちに囲まれたが、負傷に屈せず闘って、彼らを退けた。負傷の武を救ったのは奇術一座昇天斎辰丸。その裏方を手伝うことになった武は、看板歌手春野かすみに目をかけられ、サブやんという気のいい相棒も出来た。
宇島で大入りの辰丸の楽屋へ、土地の顔役青柳組の者が不当なショバ代割増し言ってきたが、満州帰りの豪傑肌の辰丸はビクともしない。たたで済まぬと覚った武は、単身で青柳組の事務所に掛け合いに出かけた。武は代貸の黒崎から親分は病気だと、玄関払いを食らったが、その武を奥に案内したのは娘分の君江で、事実青柳組親分竜作は病床にあった。竜作は武の父の旧友であり、子分の非をわび、黒崎を呼びつけて激しく叱責した。
あとで武が君江から聞いたところによると、組は病中の竜作に代って黒崎が取りしきっているが、イザコザが絶えない。君江は実子栄吉と兄妹同然に育てられ、行末は夫婦と決められていたが、栄吉は学校の卒業間際にカフェの女給葉子となじみ、大金を持ち出し、傷害事件を起こして、刑務所入りしたまま行方知れず。その栄吉さえいればという君江の嘆きに、武は宇島郊外の狙撃事件を思い出した。辰丸は武の掛合いで無事におさまったことから、彼の恩義に報いる機会を待った。
その頃、青柳組が建設中の海軍兵器工場へ、対抗関係の赤松組が殴り込みを掛け、黒崎はライフルを乱射してこれを撃退するという事件が起った。だが、事実は黒崎と赤松の大芝居で、青柳組乗取りを策す赤松に、黒崎はすでに買収されていたのだ。武は君江から、刑務所を出た栄吉が、大金の無心をよこしてきたことを聞かされ、その栄吉に会ってみる気になった。
だが、栄吉は武の訪れたカフェ・ゴンドラに居ず、葉子と会っただけだったが、折からの酔っ払った水兵たちの喧嘩騒ぎに巻きこまれ、計らずも海兵同期の水上少佐と再会する結果となった。水上から青柳組で建設中の海軍秘密兵器工場のことを教えられた武は、その酸素魚雷発射の実験も見学した。その夜、君江は栄吉の連絡で工場近くへ自分の貯金を渡しに来たが、黒崎の手引きで赤松組の者が工場を爆破させる現場を目撃した栄吉は、彼らに追われ、また、爆破直後に現場へ駆けつけた武に、官憲の疑いがふりかかった。
事件は爆破だけでなく、秘密兵器の設計書まで紛失していることがわかった。その上、悪質な投書のために水上少佐は謹慎、竜作まで憲兵からスパイ扱いの訊問を受ける結果となった。その上、武の同期生たちは憲兵隊から武を引取り、彼を囲んで自決を迫った。武は潔白を誓い、水上や竜作のためにも、真犯人捜索を一週間の日限付きで確約した。
武はまず、水上と共に魚雷発射の現場に居た江藤技術少尉の言動に疑いを持ち、江藤の背後に特務機関上りの精神家大杉天道のあることを知る。大杉は道場へ試合に来た武の腕前を見こみ、やくざをやめて自陣営へ入ることをすすめたが、武は冴えたタンカを後に道場を去った。
葉子にそそのかされて大阪へ行く手筈をした栄吉は、黒崎らに狙撃されたが、武に救われた。武は楽屋で栄吉を介抱し、その話から黒崎こそ爆破事件の共犯者と知ったが、父竜作を含めてやくざを嫌い抜く栄吉は、進んで証言しようとはしない。折から君江が竜作の自決を伝えてきても、栄吉はみんなを振切って、葉子の待つ桟橋へと急ぐ。だが、彼を待っていたのは赤松組のやくざたちだった。いまや赤松組の女となっている葉子は、青柳組へ君江を訪ね、栄吉が赤松組の手で軍用倉庫に監禁されていると告げる。罠と知った武は、子分たちを制して敢然と単身で乗り込みを決意、それと知った辰丸も進んで協力を申し出た。
軍用倉庫は海軍軍人しか入れない。武は仕官、辰丸は水兵に姿を変え、サイドカーで警戒線を突破し、赤松組の手からたくみに栄吉を救出した。やがて武の正体を知った赤松組は海岸で迫ってきたが、ここは辰丸の腕の見せどころ、武は一路元凶の大杉道場へ向う。喧嘩姿に仕度した武は、待ち伏せる大杉門下生たちを斬り払いながら大杉に迫る。大杉は、いまや邪魔者となった赤松や黒崎を処分し、江藤と共に設計図を持って海外へ逃走しようとする寸前、応援に駆けつけた辰丸の援護のもとに、武の怒りの刃がふり下ろされた。
嵐は過ぎた。栄吉は君江の許へ帰り、水上の謹慎も解けた。だがその頃武の姿は、辰丸一座からも消えていて、辰丸、かすみ、サブやんらを淋しがらせるのだった。(公開当時のプレスシートから)
詳細は、シリーズ映画「若親分シリーズ」参照。