素質物語
大映京都の『大阪物語』の主人公近江屋仁兵衛に扮している中村鴈治郎、浪花一とウタわれた有名なケチン棒ぶりを名演、一同を感嘆させているが、そのリンショクさは、真に迫って凄いばかり。皮肉屋の吉村監督思わず手をうって、「いやお見事です。迫真の演技です。素質があるんですなァ」にウッカリ乗った成駒屋、 「いや、おおけに、おおけに、さいでッかいな、そんなによろしおます」と喜んだものの、気がついて、「素質がなァ?そら、あんまりや・・・」
同じく、この仁兵衛の息子吉太郎になる林成年。これがえらいドライ息子で、新地の女の子にホレて、親爺が生命より大切にしているゼゼを湯水の如く使い、果ては親爺を発狂させてしまいます。全然大役に張切った成年クン、大いに好演しとりますが、殊に女の子に溺れ、おぜぜを湯水の如く使用する件は、どこでオボえて来たのか、これまた迫真の演技を示し、スタッフをオドロかせました。これを聞いたオヤジの長谷川一夫、ウレしいやら、心配やら、「名演技もええけど、遊ぶ方は、シバイだけにしといてや・・・」焼野のキギス、夜の鶴、心配なことで・・・。
*焼野の雉子夜の鶴
(やけのきぎすよるのつる) 子を思う親の情が深いことのたとえ。「
きぎす」は 雉 ( きじ )
の古名。巣のある野を焼かれた雉は身の危険も顧みずに子を救い、霜の降りるような寒い夜に、鶴は翼で子をおおって暖めるということから。 |