身代わりのお黒(若尾文子=中央)の本心は栗助(勝新太郎=右)が好きなのだが、狸吉郎(市川雷蔵=左)はすっかり魅せられてしまう・・・。

 

【話題】 木村恵吾監督5本目の“狸御殿映画”だが、カラー・スコープで製作されるのははじめて。お正月らしく歌と踊りはふんだんに取りいれられ、日本の代表的な民謡がすべて収められる。また豪華な顔ぶれの出演者たちがすべて歌うのが見せどころ。市川雷蔵、中村鴈治郎らがスクリーンの上で初めて歌う姿を見せるほか、映画スター、ボードビリアン、歌手などそうそうたるメンバーがゴッソリ出て、景気をつける。(封切=12月27日 カラー・ワイド)

【スタッフ・キャスト】 監督・木村恵吾 出演・市川雷蔵(狸吉郎)、若尾文子(きぬた姫・お黒)、勝新太郎(栗助)のほか、狸たちに中村玉緒、金田一敦子、二木多鶴子、真城千都世、水谷良重ほか。

 時代劇といっても、これはタヌキの世界のお話。その上、歌と踊りがふんだんに取り入れられて、いわばミュージカル・ファンタジー。

【物語】 ここはフシギな狸の国。ある日、カチカチ山の村娘お黒は父狸の泥右衛門と連れだってスタコラサッサとやって来たが

 「父ちゃん、大変!人間の鉄砲撃ちがやってきたよ」

 「それはめんどうだ。えい!番傘に化けちまえ」

 かくてドロドロドロと二人は番傘へ早替わり。折から空は、一点ニワカにかき曇ってザァーッという大雨になる。

 「あら、こんな所に番傘があったわ」

 と二人はタイミング悪く狸御殿の腰元たちに用立てられて、御殿の中へと持ち去られた。・・・さて狸御殿の中では、隣国の若殿様狸吉郎が、御殿の“きぬた姫”と見合いにくるというのでテンヤワンヤの大さわぎである。

 だが、きぬた姫は非常な才媛、かねてから自分の美貌?と術には多大の自信を持っていたので、「ワチキは人間サマの夫でなければイヤ」と、狸吉郎到着と同時に人間社会へと飛び出してしまった。「これはお家の一大事」と後に残った家老ダヌキたちはひたいを集めてガヤガヤと相談。だがタイミングよろしく、番傘として持ち帰った村娘お黒が姫とウリ二つなので、とりあえず身代わりに立ててその場をごまかすことにした。また添えものとして、全国から美女姫、歌姫をかり集めて、華やかに見合い兼タヌキ祭りを開催することになる。

 歌声が御殿に響き、華やかな舞い姿が乱れ飛び・・・集まった姫たちは、それぞれのお国自慢の民謡を披露して狸吉郎の気をひくが、すでに狸吉郎の心は身代わりにたったお黒の姿にすっかり魅せられてしまっていた。

 これでお黒が玉のコシに乗るのが決定的━という時に、“きぬた姫帰る”の注進が泥右衛門の許に飛んだ。つまりきぬた姫は人間たちから相手にされず、しょう然と狸の世界へと帰ってきたのだ。「すわお黒のピンチ・・・」と泥右衛門は娘可愛さのあまり、彼女の帰途を襲った。

 だが狸と狸のバカシアイでは有数の術使い、きぬた姫は有利。結局計画は水のアワと消えたが

 「お父ちゃん、わたしはなにも狸吉郎サマよりも、村の栗助さんの方が好き・・・」

 とお黒の告白に事態は三転、ここに姫と狸吉郎、お黒と栗助という二つのカップルができ上がった。めでたし、めでたし。 

(日刊スポーツ東京版 12/06/59)