これは宮城千賀子の主演で、かって全国ファンを沸かせた狸御殿もので、タヌキのベテラン木村恵吾監督がメガホンを握るお正月作品『初春狸御殿』だが、二人のほかに勝新太郎、中村鴈治郎らが共演、さらに藤本二三代、神楽坂浮子、松尾和子、水谷良重らの歌手が総出演、中でも水谷はジャズならぬ民謡を歌いまくるという話題作である。
××・・・木村恵吾監督と"狸御殿"の歴史をふりかえってみると昭和十六年、新興キネマ時代に高山広子で製作されたのが初めて。以後十七年、大映になって楠木繁夫、美千奴らに男装の宮城千賀子、高山広子が主演『歌う狸御殿』というミュージカルを作り、これが大ヒットした。二十三年には、喜多川千鶴、明日待子、暁テル子らで『春爛漫狸御殿』、二十四年には『春くらべ狸御殿』で京マチ子が初めて素晴しい肉体美と踊りをみせた。
××・・・これから十年ぶり、五本目として木村恵吾が監督することになったわけだが、こんどの作品は純日本調、時代劇畑の狸御殿になるはずで、みせ場は雷蔵の狸吉郎ときぬた姫が結婚のため見合いをするシーン。狸吉郎の花嫁候補が日本全国から集まって、それぞれ南国土佐、おけさ、ひえつき節などお国自慢の民謡を歌うくだりだ。雷蔵、若尾のデュエットにかぶさって地方色豊かなシーンが、さまざまな歌手の登場とともにくりかえされるという趣向。
××・・・すでに東京撮影所で、この見合いシーンの開始を告げるプレ・スコを行ない、藤本二三代、松尾和子、神楽坂浮子、中村鴈治郎らが吉田正立会いのもと歌いまくった。小学校以来の歌・・・という鴈治郎は、調子はずれのバリトンを張りあげ、これがえって味があると吉田正を喜ばせたりした。
××・・・木村監督は、「狸御殿もやっとカラー・ワイドになった。タイプとしては第一回のタヌキに近い純時代劇調、民謡調でいくつもりだ。おりよく民謡ブームなので見合いのシーンなど思い切りハデにバックの絵なども日本調の大家をわずらわして立派なものにしたい。テーマは簡単でお黒(若尾文子)という純情な娘ダヌキが自分の父親の悪心を改めるという孝行タヌキの話。健康なテーマなのでカラーを生かしてダレにも楽しめる明るいキレイな作品したい・・・」と、なつかしそうに語っていた。
××・・・また主演の雷蔵、若尾は、雷ちゃんが、「理屈抜きの楽しい映画なので、変な時代劇より割り切れてずっと楽しい。お正月作品らしく大いに浮かれて二枚目ぶりを発揮したい。セリフ調の歌も初めて歌うが、どうなることか・・・」と語れば、若尾ちゃんは、「映画で歌ったことも、時代劇調のミュージカルも初めて。でも大いに張り切って楽しくやってみます。勝っちゃんとも初めての共演ですが、いろんな楽しいことが重なってやりがいのある作品です・・・」と、雷蔵、勝にはさまれて大ニコニコ。歌える勝ちゃんだけが黙ってニヤニヤ余裕のあるところをみせていた。
(デイリースポーツ・大阪 11/15/59) |