タヌキ国に舞台をとり、恋と人情のロマンスをファンタジックに描く大映京都の『初春狸御殿』(監督木村恵吾)がクランクインした。主演は小鼓山の若殿狸吉郎に市川雷蔵、カチカチ山の薬売り栗助に勝新太郎、狸御殿のきぬた姫と、カチカチ山の純情娘タヌキのお黒の二役に若尾文子。ほかに水谷良重、神楽坂浮子、藤本二三代、松尾和子、楠木トシエ、和田弘とマヒナスターズ、ビクター少年合唱団、トニー谷、小金馬、猫八、小浜奈々子、鴈治郎といった異色キャストが出演している。

初春狸御殿クランク・イン

 「明るく楽しい純日本調ミュージカルの狸御殿を・・・」と木村監督は抱負を語っていたが、初日のセットは、いかにもこの監督のねらいとピッタリあった"カチカチ山"のシーン。

 美術監督の上里義三、西岡善信の両氏が、童話の絵本を買い集めたりして工夫をこらしたというセットは、ディズニーの動画を思わす美しさで、大きなA2ステージへ足を踏み入れると、さながら夢の国へ迷いこんだようなふんいき。

 小さな沼のほとりにトチの大木が根を張って、黄色く色づいた大きな葉を垂れ下げている。太い幹には、空ドウがあって、ここがお黒と、父の泥右衛門(菅井一郎)の住居という設定。

 緑のクヌギ林が続く枯葉の中から、人間の頭ほどもあるキノコがニョキニョキ生え出て、人里はなれたカチカチ山の情景を見事に出している。

 木村監督の「ヨーイ、スタート」の声がかかると、勝の吹きこんだ明るい調子の"薬売りの唄"がセット一ぱいに流れる。やがてこの歌に乗って勝の栗助が陣羽織、背中に旗を背負った薬売りスタイルで太鼓を打ち、歌いながら登場する。

楽しいミュージカル

 沼に倒れこんだ木の上にバッと飛び出したカッパのおぶく(小浜奈々子)おぴよ(毛利郁子)たちがキャッキャッと合の手を入れて合唱する。

 日劇ミュージックのトップ・スターの小浜奈々子は、時代劇初出演、とくにこのシーンのために大映から招かれたのだが、ナイロンの腰ミノ、頭にも同じくナイロン製の水色の長いズラを下げ、背中にコウラをつけたカッパスタイルで毛利とともに美しいヌードを惜しげもなくみせる。

 お黒の父泥右衛門は、昔ウサギのために大火傷を受けた意地悪タヌキで、親孝行なお黒が父のために薬を買っているうちに栗助と結ばれ、父の悪心をもなおす・・・と話は続いている。ところで、スタッフ一同楽しくのびのびとして、いかにもミュージカル映画らしい初日の撮影風景だった。

(デイリースポーツ・大阪 11/22/59)