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 ケンランたる元禄文化を背景に、世之介のあくなき女体遍歴を描く井原西鶴の名作『好色一代男』を、大映では陽春を飾る大作として、演出には気鋭の増村保造監督、シナリオに白坂依志夫、撮影には村井博という現代劇トリオを起用、主演には市川雷蔵の世之介を中心に、若尾文子、中村玉緒、水谷良重、近藤美恵子浦路洋子、阿井美千子、船越英二、中村鴈治郎らの多彩の顔ぶれで快調な撮影を続けている。

 セットは、雷蔵世之介があまりの放蕩のために父夢介(中村鴈治郎)から勘当され、流浪のすえ、北国の漁師町にたどりつく。そこでその町のボスである網元のメカケになっているお町(中村玉緒)を知る。甘い言葉と持ち前の色男ぶりで、お町を陥落させ、きびしい監視の目をのがれて、二人で駆け落ちをする。命がけの駆け落ちで、若い二人の情熱はたぎる。山中の辻堂にたどりついた二人。泥だらけになったお町の足をきれいにぬぐい、寒さにふるえるお町に自分の着物を一枚ずつ脱いで、着せかけてやる。フェミニストぶりを発揮する一幕である。そして若い二人は感きわまって、堅く抱きあう。

 増村監督の鋭い目がしつように雷蔵・玉緒の転々とするラブ・シーンを追う。ブルー・リボン、ホワイト・ブロンズ賞の演技賞をうけた中村玉緒が、ことしの第一作として、はじめて増村監督と組んだ仕事だけに緊張そのもの。これを雷蔵世之介がたくみに冗談をいいながら、ほぐしてやる。なかなか堂に入ったフェミニストぶりに、増村監督も、「その調子、その調子」と雷蔵をけしかける。

 だが、そこは毒舌家の雷蔵、「玉緒ちゃんの足は泥だらけで、本当にいたいたいしいからいたわってやろうという気持ちとなってくるんだ。いままでは玉緒ちゃん、玉緒ちゃんと気やすく呼んでいたが、いまや時代劇女優のナンバー・ワン的存在になってしまったから、恐れおおくって・・・」と玉緒をからかう。

 玉緒はポーッとホオを赤らめ、「そんなことはありません。賞をいただいたのも、みな雷蔵さんらの好リードがあったからで、わたし一人の力じゃありません。まだまだわたしなどに演技力というようなものはないし、なにぶんともよろしく・・・」といたって低姿勢。

 粘っこい演出ぶりで知られている増村監督も、この二人の息のあったコンビには、ほとんど口出しもせずもっぱら独特のカメラ・アングルの設定に凝り続け、熱の入った撮影風景を展開していた。

 (02/20/61)