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広がったフレーム 『炎上』

肩ナメ

 雷蔵が五番町の遊郭で、中村玉緒に、自分が絶対だと思っている驟閣の価値を黙殺されるくだりがある。

 「驟閣寺が焼けたらどうする」

 「そんなものが焼けても焼けへんでもどっちでもよろしいやないの。ここが焼けたらえらいこっちゃけど・・・」

 というセリフのやりとりを肩ナメの切り返しで撮っている。雷蔵のセリフのときも、前に中村玉緒を大きくフレームに入れ、玉緒のリアクションも見ることが出来る。玉緒のセリフの時は雷蔵を手前に入れて撮り、カットをかさねていく撮り方である。スコープで肩ナメのサイズ、手前の人物の入れ込み方といい、キャメラ・アングルといい巧みで、スタンダード版の肩ナメの切り返し同様の効果をあげている。つづきで、「・・・うちあと三年あるの、同情してほしいわ、とあまり同情してほしそうでもなく言う、溝口ががっかりした様につまみ物を頬張る」と台本にある。

 芝居の転調でフルサイズに引き、下手(キャメラから見て左側)にいた玉緒が上手に渡りこむ(フレームの端から端へ中央人物をよぎって居場所を変える)。広くなったフレームを縦横に使って芝居をつけ、宮川は楽にそれを処理していく、市川は二人を寄りサイズで撮るとき、思いきって実際より近づける手を考えた。それをなんの違和感もなく見せるのは宮川である。

 スタンダード版の標準レンズは50ミリ・レンズだが、スコープ・サイズの50ミリ・レンズでは「なんか水っぽくなって仕方がないので75ミリを使いました」という。寄っても75ミリ、ロングでも75ミリである。これは狭い所を撮るときは有効な手段である。