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広がったフレーム 『炎上』

空をおとす

 舞鶴ロケや、仲代と雷蔵のからみの京都ロケは、曇天をねらって撮っているが、空の部分を黒く落とし、陰鬱な感じを強調している。これは絞ってアンダー目なネガを作るというのではなく、ネガはしっかりさせておいて、空にNDフィルターをかけて、明るすぎる部分だけを落としていくというやり方である。暗くするといえば、宮川が巧くいかなかったと述懐するシーンがある。それは防空壕の内から外向けのデイシーンで、母親(北林谷栄)に、雷蔵が成生の父の寺が人手に渡った話を聞かされるところで、手前を真っ黒につぶし、外をとばして「ハイコンで撮った画調にしたかった」のだが、反射で人物の正面が見えすぎたのである。

 ここに宮川が『炎上』撮影中に使った台本がある。仲代から借金して舞鶴に帰って来た雷蔵は、すでに人手に渡った生家の顕現寺前に立つ。台本の4としるしてあるアップから回想に入り、父の葬式の日になる。宮川が使った台本は撮ったカットはスケッチされ、カット割りと心覚えが書かれているが、このページは珍しくカット割が書かれていない。ところどころに赤く線が引かれているだけである。列記すると、暑い日、焼場へ、海に臨む、石ころだらけの、おびただしい煙が海に向かって流れ、棺の蓋が跳ね上がり、炎を見ている、というところである。宮川は台本を何度も読み返し、このシーンを撮影するときは、これだけは必ず撮り込んでおかなければならないと思ったのであろう。

 結果はどうか、観客は宮川がアンダー・ラインを引いたディテールから強いインパクトを受け、長く記憶に止めることになった。力のある撮影監督とは、このようなディテールで何事かを語る力を持った映像を撮影できる人のことをいうのではあるまいか。

株式会社パンドラ 12/10/97)