陸軍中野学校シリーズ(66/6〜68/3)

 日本陸軍の諜報員養成機関といわれる陸軍中野学校の実態とその活動を描く邦画では、珍しいスパイ映画。66年〜68年にかけて5本製作され、時代劇スターだった市川雷蔵の現代劇での代表作となった。

 陸軍中野学校の一期生となった椎名次郎が敵国スパイをつきとめて、その謀略を打ち砕くというのが基本設定だが、増村保造が監督した一作目のみその基本パターンからはずれて、中野学校生ひとりひとりの悲哀を描いた青春映画として出色のできとなっている。娯楽色がついたのは第二作目以降。

 主人公・椎名のキャラクターは“大菩薩峠”“眠狂四郎”シリーズで市川が培ってきたクールで無頼な二枚目役の延長線上にあり、まさにハマリ役。レギュラーらしいレギュラーは上官役の加東大介ぐらいしかおらず、あとは毎回女優がゲスト出演というシリーズもののお決まりパターン。全作モノクロ撮影の画面も、とかく嘘っぽくなりそうなスパイ戦にリアリティを与えている。( ぴあ CINEMA CLUB[邦画編]より)


陸軍中野学校 シリーズ

陸軍中野学校
 
 
 
 

 

 

熱っぽいリハーサルを続ける左から加東大介、市川雷蔵、増村監督 

(04/25/66)

 さきに『氷点』を公開した大映東京撮影所は、撮影中の『野菊の如き君なりき』(伊藤左千夫原作、宮本壮吉監督)、『雁』(森鴎外原作、池広一夫監督)にひきつづき、週刊サンケイに連載中の畠山清行氏の同名戦記物語りを映画化する『陸軍中野学校』(増村保造監督)の撮影を開始、“やくざ映画”一辺倒の日本映画の風潮に、激しい抵抗の姿勢をみせて注目されている。

 『陸軍中野学校』の主演は市川雷蔵。彼にとっては『剣』いらい二年ぶりの現代劇出演だが「軍服を着るのははじめの部分のわずかなシーンだけで、あとはセビロ姿。わたしとしてははじめての経験なんですヨ」と真剣な表情をみせる。

 この日の撮影は軍服姿。旧日本軍のスパイ養成機関“中野学校”の生みの親である草薙中佐(加東大介)にスカウトされた三好次郎少尉(市川雷蔵)が、スパイとしての適格検査を受けるくだり。

 まだ撮影を開始したばかりのせいか、日ごろきびしい増村監督の“毒舌”ぶりはまだ聞かれなかったが、それでもベテランの加東大介になんども“NG”をだして、とりなおしをするあたり気力じゅうぶん。

 雷蔵と増村監督とのコンビは時代劇『好色一代男』(昭和36年公開)につづいてこれが二本目だが、加東大介と増村監督とも『黒い超特急』(昭和39年公開)についでこれが二本目。

 「雷ちゃん(市川雷蔵)とはこれが二本目だが彼のばあい時代劇と現代劇とではまるで違う。現代劇だと彼はとてもシャープな面をみせてくれる。加東さんはシナリオの段階からぜひこの役はやってもらいたいと思っていただけにピタリだ」と増村監督はいう。

 雷蔵は、陸軍自動車学校を卒業すると、すぐにスパイ候補生として“中野学校”に入学する青年将校。「はじめはスパイになることに懐疑的で、傍観者的な立場にいるが、イギリスの情報機関に自分の恋人(小川真由美)が協力しているのがわかり、みずから恋人を殺さねばならなくなる。それが動機でスパイになることにハッキリとわりきるんです」

 増村監督は「スパイ映画といっても、これはスパイの手口や活動を興味本位に描くのではない。青春をギセイにして国のためにつくした戦前の青年たちの姿を描くのがねらいだ。現代の大学生が自分の生き方に信念を持っているのと同じように、あの当時の中野学校の生徒たちにも、愛国心のために自分をかえりみない信念があったはずだ。なかにはそうした“強さ”についていけない者もいたろう。この映画は、雷ちゃん(市川雷蔵)ふんする青年将校を中心にしたスパイ学校の“青春群像”を浮きぼりにしてみたい」と、熱っぽく抱負を語っていた。

 

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