花の兄弟

1956年6月8日(金)公開/1時間14分大映京都/白黒スタンダード

併映:「月夜の阿呆鳥」(安田公義/堺駿二・阿井美千子)

製作 武田一義
企画 山崎昭郎
監督 三隅研次
原作 子母沢寛「娯楽よみうり」連載「桃源社」版
脚本 犬塚稔
撮影 竹村康和
美術 西岡善信
照明 古谷賢次
録音 奥村雅弘
音楽 高橋半
スチール 小牧照
出演 林成年(辺見播磨)、木暮実千代(賑のお辰)、三田登喜子(美代次)、中村玉緒(島田の姪妙)、浜世津子(小倉庵の女房お徳)、舟木洋一(秋本伊織)、千葉登四男(西森蔵)、東野英治郎(青木弥太郎)、荒木忍(島田虎之助)、杉山昌三九(岩下典膳)、羅門光三郎(伊勢屋安左衛門)、尾上栄五郎(花井筒の五郎衛)
惹句 『弟は復讐を誓って剣を練り、兄は無頼の徒に交って明日を忘れる江戸城爆破の陰謀の渦中、美しく咲く恋と兄弟愛』『花の誓いに鉄火の恋に剣が舞い飛ぶ八百八町

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山根貞夫のお楽しみゼミナール

 『花の兄弟』は三隅研次・市川雷蔵コンビによる二本目の映画である。二人は監督および俳優として同じ1954年にデビューし、この直前の股旅もの『浅太郎鴉』(1956)で出会った。コンビによる作品は、全部で17本を数える。そしてもう1本、1968年に『関の弥太っぺ』が撮られるはずであったが、クランクインまでしながら、市川雷蔵の病気で残念ながら中断されてしまった。この『花の兄弟』は三隅研次の6作目で、このとき雷蔵は25歳、共演の林成年もやはり1954年に本格的デビューをし、このとき同じ25歳であった。そんな両人が兄弟役を演じ、ちゃんと雷蔵のほうが年上に見えるのは、さすがニ十本もスター街道を歩んできたゆえの貫禄であろうか。

 年齢といえば、雷蔵に屈折した想いをいだく役の木暮実千代は、このとき三十七歳である。この前年、溝口健二の名作『新・平家物語』では彼女は雷蔵の母親に扮していた。それがこの映画でも、翌年の『弥太郎笠』でも、雷蔵に色気で迫る女をみごとに演じるのである。女優に年齢はないといわれるが、なるほどと感嘆させられる。

 『花の兄弟』がつくられた1956年は各社が量産に拍車をかけたころで、大映も本格的な二本立て体制に向っていた。この映画が一時間二十分もない短さであるのも、二本立てゆえにちがいない。

 そんな短い尺数のなかでも、ドラマ展開の描写はじつに緻密になされている。さすが三隅研次の演出力、といえよう。たとえば悪党一味が黒装束に終始するのに対し、市川雷蔵がいつも白っぽい着物を着ているのは、明らかにモノクロ画面の効果を計算しての配慮であろう。三隅研次・市川雷蔵のコンビによる映画をもっと見たかったとつくづく思う。

 なお、『花の兄弟』の原作・子母沢寛、脚本・犬塚弘、監督・三隅研次という組み合わせは、数年後、あの『座頭市物語』(1962)を世に送り出す。(キネマ倶楽部・日本映画傑作全集ビデオ解説より)

  

★ 作品解説 ★ 

 脚本大塚稔、監督は『浅太郎鴉』などで知られる新鋭三隅研次、撮影は竹村康和の担当。キャストは、市川雷蔵、林成年と明日の時代劇を担う両ホープが、激しく争う宿命の兄弟に扮しての初顔合せに加えて木暮実千代、三田登喜子、浜世津子、中村玉緒と妖艶新鮮の女優陣に、東野英治郎、千葉登四男、舟木洋一らの新鋭助演陣を揃えて豪華多彩な顔合せを実現している。

★ ものがたり ★

 浅草蔵前の茶屋の二階で、札差の旦那衆が集り博打に夢中になっている最中、立派な駕籠を乗りつけてきた大名の奥女中が彼等から百両入りの財布を捲き上げ、凄味のセリフを残して出て行ったが、やがて別室から現れたその女の姿は、洗い髪に黄八丈というガラリと変った仇っぽさ、騙られたと知った亭主たちが掴みかかって行ったが、供の若郎党姿の男に手もなく投げられた。しかも表口には、肩臂張った浪人数名。彼等は近頃、江戸で通り魔の様に恐れられる青木弥太郎一味の悪浪人、女は首領青木の情婦で賑のお辰と呼ばれる莫蓮女だった。

 折柄、道場帰りの若侍たちがこれを見掛けたが、その一人はお辰に従う若党姿の男を見て、アッとばかり息を呑んだ。この若党姿の男は、半さんこと大塚半九郎、一刀流の達人ながら遊芸と博打に身を持ち崩した変り者、若侍は半九郎の弟で他家を継いで辺見播磨と呼ぶ島田虎之助道場の小天狗だった。この兄弟の父は、昨年、己の預る鉄砲庫から短銃十挺を不逞浪人一味に奪われ、その責を負って自刃した。以来、播磨は一途に実父の無念を晴らさんと思いつめ、懸命に仇を捜し求めたが、半九郎は家断絶を好いことに放蕩の限りを尽して、その行方さえ知れぬ有様だったのである。ここに図らずも、悪名高い青木一味に加わっている兄の姿を見た播磨は、情けなさに慟哭するのだった。

 一夜、播磨は小倉庵の長二郎というやくざに襲われた柳橋の名妓美代次を救った。彼女が兄半九郎の恋人と知った播磨は、兄の本心を確かめたい一心から、美代次に案内させて、半九郎と対面した。しかし、武士の世界に愛想を尽かした半九郎の態度は、播磨をいたく失望させるのだった。

 短銃盗人の疑いを青木一味にかけた播磨は、ある夜、青木の荒れ屋敷へ忍び込んだが、浪人たちに発見され、奮戦の末、空井戸の中へ転落した。彼を秘かに救い出したのは、意外にも兄の半九郎だった。この怪しい人影に短銃を擬して迫ったお辰は、それが彼女のかねての思いを焦がしていた半九郎と知ると流石に筒先が鈍った。その隙に短銃を奪い取った半九郎は、それこそ亡父の失った十挺の一つである事を知り、お辰にその隠匿場所を教えるように迫った。

 その頃、薩摩藩の御用人岩下典膳は、幕府政治に致命的一撃を与えるため、谷中の煙硝庫を爆破して、江戸中を大混乱に陥れようと画策していた。この実行を秘かに任されたのが青木一味である。多額の報酬に眼のくらんだ青木は、お辰の制止も聞かずにこの恐ろしい仕事を引き受けた。

 江戸の町を愛するお辰は、一日、半九郎を料亭に誘って自分と一緒に逃げてくれと、言葉を尽して愛情を打明け、鉄砲を収った蔵の鍵を手渡した。しかし、半九郎は鍵を受けとるとお辰を残して慌ただしく立去った。

 美代次に懸想する薩摩藩出入の唐物問屋伊勢安は、小倉庵の長二郎を使って彼女に毒牙を延そうとしている。傷ついた身に兄の本心を確かめようとする播磨の身を案じるのは、島田虎之助の姪妙である。青木一味の犯行を知った半九郎の行動は?今夜に迫った煙硝庫爆破の陰謀に、火が、血が、剣が江戸の町を真っ赤に染めて行こうとする。(公開当時のパンフレットより)

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兄弟愛?を発揮する雷蔵、成年

強盗はスバラしいと木暮

大映『花の兄弟』セットの話題

その一・ヒノキ舞台 − 大映の痛快時代活劇『花の兄弟』(三隅研次監督)で、江戸花川戸河岸の材木置場シーンを撮影した時のこと、黒頭巾の悪浪人団の煙硝庫爆破計画が目前に迫ったことを知り、さらにその首領青木弥太郎(東野英治郎)が、非業の死をとげた父の仇と知って、大塚半九郎(市川雷蔵)は怒りに燃えて、今や火を噴こうしている煙硝庫の爆破現場に、一路疾駆する。そしてこれを阻止せんとして待伏せた浪人団と材木置場で大立廻りとなるのだが、雷蔵この日の意気や正に軒昂、富るを幸いバッタバッタと浪人共を投げ飛ばす。東野「雷蔵さんいやに張り切っているね」と冷やかすと、彼「が燃え移ろうとしている材置場が舞台でしょう。歌舞伎出身の僕にとってはヒノキ舞台はこたえられませんよ」

その二・心配御無用 − 大映『花の兄弟』で悪浪人団の首領(東野英治郎)の情婦として、妖艶の美貌を持ちながら青木と共に悪事の片棒かついで暗躍する賑のお辰という大変な妖婦に扮している木暮実千代、江戸下町のある両替屋に強盗に入るシーンを撮影した時のこと、彼女も粋な紫の高祖頭巾に顔を覆って颯爽?と出演した。ところが彼女の姿に目を留めた三隅研次監督に「木暮さん、その衣裳は少し地味過ぎやしないかな」といわれると。彼女すまして「ハイ、ではこれからドロボーに入って派手な着物を盗ってきます」

その三・ついなつかしくて − 大映『花の兄弟』(三隅研次監督)で、放蕩無頼のやくざの兄大塚半九郎、熱血正義の青年剣士・弟辺見播磨とそれぞれ激しく争う宿命の兄弟に扮して顔合わせしている市川雷蔵、林成年の二人。クライマックスの火薬庫爆破場面で二人力を合せて、非業の最期を遂げた父の仇青木弥太郎(東野英治郎)を討ち取るシーンを撮影した。成年はその前のシーンで頭に負傷して、白鉢巻を大きく巻いているのだが、その彼をかばう雷蔵の表情がまるでほんとうの兄弟のような親愛感に溢れている。傍の芸者美代次の三田登喜子がそのことをいうと、雷蔵「実は成年クンが僕のデビュー作『花の白虎隊』の時の僕の扮装にそっくりなんだ。その時の自分を見るようでね、つい」とは、無理もない。(公開当時のパンフレットより)

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 原作・子母沢寛は週刊娯楽よみうりに連載中で、広汎な読者層に非情な好評を以って愛読された傑作時代小説の映画化で、物語は、幕末の動乱期を背景に、侍やくざと剣の道をゆく異った環境を歩く二人の兄弟が、江戸八百八町を灰燼に帰せしめんとする陰謀をめぐって縦横に活躍する中に恋と兄弟愛を描く波瀾に富んだ痛快時代活劇。(公開当時のパンフレットより)

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