眠狂四郎女妖剣

1964年10月17日(土)公開/1時間21分大映京都/カラーシネマスコープ

併映:「座頭市血笑旅」(三隅研次/勝新太郎・高千穂ひづる)

企画 財前定生
監督 池広一夫
原作 柴田錬三郎
脚本 星川清司
撮影 竹村康和
美術 西岡善信
照明 加藤博也
録音 大角正夫
音楽 斎藤一郎
助監督 遠藤力雄
スチール 三浦康寛
出演 藤村志保(小鈴)、久保菜穂子(びるぜん志摩)、根岸明美(巫女青蛾)、春川ますみ(お仙)、城健三朗=若山富三郎(陳孫)、小林勝彦(鳥蔵)、中谷一郎(武部光源)、浜村純(室谷醇堂)、阿井美千子(藤尾)、毛利郁子(菊姫)、稲葉義男(備前屋徳右衛門)、水原浩一(利倉屋与兵衛)、伊達三郎(易者)、浜田雄史(下曽我典馬)、南条新太郎(守田粂次)、寺島雄作(牢屋同心)、浅野進治郎(藤波大和)
惹句 『惚れさすばかりで、惚れず、燃えさすばかりで、燃えず、女の肌をせめながら背後の敵を斬る』『剣の妖気にしびれる女体剣の殺気におびえる刺客憎い素敵な狂四郎』『妖しく激しく迫る五つの肌抱かんとすれば、襲い来る必殺の拳法迫る忍者

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高橋豊子画

 “眠狂四郎シリーズ”の第四作。今回は題名にふさわしく、柴田錬三郎の原作に忠実に強烈なエロティシズムを全篇にみなぎらせ、それに加えて狂四郎ならではの円月殺法が少林寺拳法、伊賀忍法などとの強敵と対決する徹底した娯楽作品である。

 脚本は星川清司。監督はこのシリーズはじめてのメガホンを握る池広一夫。出演者は市川雷蔵が四度目の眠狂四郎に扮するほか、城健三朗、それに藤村志保、久保菜穂子、春川ますみらの女優陣。(キネマ旬報より)

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★ 解 説 ★

☆この「眠狂四郎女妖剣」は、好評の眠狂四郎シリーズの第四作。今回は、題名にふさわしく、柴田錬三郎の原作に忠実に強烈なエロチシズムを全篇にみなぎらせ、それに加えて、狂四郎ならではの円月殺法が少林寺拳法、伊賀忍法などとの強敵と対決する興趣満点の徹底した娯楽作品です。

☆内容は、将軍家のサディスティックな姫君、媚薬を使って新婚初夜の男女を悦楽に狂わせる謎の巫女、処女の肉体を全裸にさらし牢獄のバテレンを誘惑する可憐な町娘、肌をまかせながら夫に狂四郎を狙わせる鳥追い女、聖女のベールのかげに淫欲をたぎらせる尼僧などなど、無頼浪人狂四郎をめぐって、次々と妖艶な美女が登場。一方、老中を抱き込み幕閣深く勢力を伸ばす怪商、備前屋が、事々に邪魔立てする狂四郎を亡き者にせんと、少林寺拳法の達人、下曽我典馬らの手練者をさし向けて謀略と奸智を凝らした凄惨な殺陣を展開するというドラマです。

☆キャストは、ピッタリの適役で市川雷蔵が四度目の眠狂四郎に扮する他、おなじみの陳孫に城健三朗が扮して狂四郎と宿命の対決をする他、藤村志保、久保菜穂子、春川ますみ、根岸明美、毛利郁子らの豊満な肉体を誇る美女が惜しげもなくその肌を見せるというのが大きな話題を集めています。他に阿井美千子、小林勝彦、中谷一郎、稲葉義男、浜村純、浅野進治郎、浜田雄史、水原浩一、南条新太郎、寺島雄作、杉山昌三九らの芸達者が顔をそろえています。

☆スタッフは、このシリーズ初めてメガホンを取る池広一夫監督が「狂四郎という人物は、鞍馬天狗や丹下左膳、それに机竜之助の魅力を一身に集めた男だ。殺陣は勿論だが、エロチシズムを様式美で強調、派手で面白い作品に仕立てる」と意欲を燃やしている他、撮影・竹村康和、録音・大角正夫、美術・西岡善信、照明・加藤博也、編集・谷口登司夫らのベテランメンバーが集っています。(公開当時のプレスシートより) 

 

 大映京都『眠狂四郎女妖剣』(池広一夫監督)に春川ますみが出演。セットにお色気ムードを盛り上げている。春川は五年前『歌麿をめぐる五人の女』に歌麿のモデル役に出演したことがあるが、こんどは狂四郎(市川雷蔵)を誘惑する鳥追い女。

 道中、狂四郎を旅館に誘い込み、酒をのみかわすシーン。春川は持ちまえの肉体美を誇示するかのように、真っ赤なじゅばん姿でしなをつくる。そして毒入りの酒をのませて狂四郎をメクラにしてしまうが、春川の背後には狂四郎の命をねらう男がいたという設定。

 狂四郎がその男を切り、春川とのくだりが終わる予定だったが、池広監督は「それではせっかく春川君に出演してもらった意味がない」と撮影間ぎわに、春川が狂四郎に殺されるシーンを書き替える念の入れ方。

 当の春川は「五年ぶりに大映さん、しかも初めてカツラをつけるのでとても新鮮な気持ちよ」とあどけない表情で話していた。(西スポ 09/12/94) 

[ 略筋 ]

 狂四郎は、ある朝、浜町河岸に横たえられた、全裸の美女二人の死体を見た。何故か、下役人は調べもそこそこに番所へ引上げたが、見物の中から現われた鳥蔵と名乗る男は、死体が、大奥でも美貌で聞えた中藹、綾路とお半下女中の美乃の二人である事を明かした。直後、鳥蔵は役人に捕えられたが、彼は隠れ切支丹であり、狂四郎に救いを求めたが、彼は冷然と見送った。

 幕閣深く、金力を武器に勢力を伸ばす豪商、備前屋は、老中、水野忠成を抱き込み、大奥医師、室矢醇堂を使って、男日照りの大奥の女達に、阿片を送っていたが、さきの二人の美女は、将軍の娘菊姫に麻薬責めにされ、なぶり殺されたものだった。菊姫は、兄を救う為と称して、鳥蔵の妹小鈴に、牢内のバテレン、ヨハネ・セルディニイを誘惑するように持ちかけた。純真な小鈴は、兄を救う為と決意して、けがれない処女の肉体を全裸にさらして、バテレンを抱き、誘惑に成功させた。しかし、嗜虐的な菊姫は、約束を守らず、鳥蔵をなぶり殺し、その目の前で泣き叫ぶ小鈴を非人達に輪姦させた。あまりのことに駈けつけた狂四郎は、円月剣をふるったが、小鈴は舌をかみ切って死に、断末魔の鳥蔵は、浜松にいる信徒達の聖女、びるぜん志摩が狂四郎の血のつながる女だと云ってこと切れた。

 菊姫の乱業が表立ち、自分達の悪事が暴露されることを恐れて、備前屋は、老中に手をまわし、菊姫を岡崎の本多家に預かりの身にする上意を出させた。備前屋は、一日、狂四郎を邸内に招き、十数人の手練の男達を集めて、襲撃した。愛刀、無想正宗を手に、超人的な技を見せて、狂四郎はすべてをなぎ倒した。

 狂四郎は、鳥蔵の言葉に興味をおぼえ、浜松への旅に出た。備前屋は、この恐るべき強敵を倒さんと、次々と刺客を送った。途中、道端の易者が、狂四郎を呼び止め、この道を進めば命はないと占ったが、狂四郎は、かまわず足を進め、異様な雰囲気の巫女に出会った。巫女は、淫薬を用いて新婚前夜の花嫁が、男と激しくむつみあう様を見せ、自らも、情欲に目をたぎらせて真っ白な太股で狂四郎の腰をはさんだ。その瞬間、頭上から黒い影が狂四郎を襲ったが、愛刀無想正宗を足の親指でひきつけた狂四郎は、一瞬の間に敵を斬った。黒衣の死体は昼間会った易者だった。

 大井川の氾濫で足どめされた狂四郎は、妖艶な鳥追い女に呼び止められた。旅籠の一室で、女の求めるままに酒を飲み、女体を抱き寄せた狂四郎は、目がかすむのを憶えて愕然とした。いつしか、狂四郎にひかれた女は、毒を少量盛り、狂四郎の目をつぶすにとどめたのだった。それを知った狂四郎は盲目のまま、襲って来た刺客の目を横なぎの一閃でつぶした。狂四郎の目は、彼との対決を楽しみに待つ、宿敵少林寺拳法の達人陳孫のもたらした薬で救われた。

 掛川宿を通りかかった狂四郎は、藩邸に案内され、城代家老から岡崎への道中立ち寄っている菊姫が、狂四郎と一夜を共にすることを求めていると告げられた。狂四郎は、冷笑と共に承諾した。その夜、寝所で菊姫が絶え入るような呻き声もらし続けた後、室の一隅で、行燈の灯と共に、うっそりと座っている狂四郎の姿が浮び上った。驚愕の叫びを上げて菊姫は別室へ姿を隠したが、菊姫と共に寝ていたのは、かって姫に愛弟子をなぶり殺された当代一の人気役者、守田粂次だった。

 目指す浜松。蘆荻の生い茂る浜名湖の入江。路上で知った隠れ切支丹に案内された狂四郎、とある舟小屋でびるぜん志摩に会った。志摩は、間もなく信徒の集まりがあると告げたが、集った信徒達は、突如襲った役人達に一人残らず捕えられた。志摩も瞬間、飛来した手裏剣に肩口を刺された。傷を負った。毒液を出そうと傷口に口をつけて吸う狂四郎に、清純な尼僧の顔が不思議にも恍惚の表情に変った。

 志摩をかばい舟小屋の外に逃れんとした狂四郎は、菊姫の配下武部光源一味に襲われ応戦中、志摩を手下にさらわれ海上につれ去られた。狂四郎は武部らを斬り倒し、その夜、小舟に乗り、備前屋の持船に乗り込んだ。暗黒の海上で、備前屋一味の火矢、鉄砲と斗い、凄絶な死斗が展開された。宿敵陳孫と狂四郎の対決は、相打ちに終り、再会を約して陳孫は海中に身を躍らせた。

 すべてが倒された後、船倉で祈るびるぜん志摩にめぐり会った狂四郎は、“偽切支丹奴”と浴びせかけた。血を吸った時の彼女の表情から、この女が備前屋の手先で、聖女と見せかけて信徒達を売っていたこと、狂四郎をこの船におびき寄せる為に、うまうまと配下にさらわれたことを狂四郎は見通していた。瞬時にして妖艶な表情に変った尼僧は、夢想正宗の一閃毎に、黒衣を斬り裂かれ純白の肌をさらしながら、遂に全裸の姿になって狂四郎を抱かんと全身に媚をたたえて迫って来た・・・。(公開当時のプレスシートより) 

『眠狂四郎女妖剣』うらばなし

 「どうも興行成績がパッとせんのや、次回をみて打切りにするかも知れんが、君なりに考えてやってみてくれ」企画部長の言葉である。既に狂四郎は三作を封切っていた。

 その夜から私は柴田錬三郎氏の眠狂四郎無頼控全六巻を再読した。私が眠狂四郎を初めて読んだのは、「週刊新潮」だった。毎週読切りで一ツの話が終っている。短い一話の中に狂四郎の背負っている暗い過去、神に対する不信感が滲み出ていた。そして何よりも漂うエロチシズム、極端に言えば春本的ともいえる描き方、それと円月殺法の神秘さというものがコンパクトに集約されて一気に読ませていることを再確認した。

 これでゆこう、一ツの狂四郎の行動をヘソにして、狂四郎の道中の間に次々と事件を搦ませ、各エピソードに夫々個性の異なった女性を配置して描いてゆき、ラストシークエンスには前作品では判然としていない狂四郎の出生の秘密を映像化する。数日でプランは出来上がった。脚本は星川清司氏に依頼、女優陣に藤村志保、根岸あけみ、春川ますみ、久保菜穂子を揃え、007シリーズのボンドガールズに対して狂四郎ガールズとしてPRしたらどうかと宣伝部と話し合ったりした。

 難航したのは藤村志保の裸体シーンだった。『破戒』でデビュー以後、彼女は大映の清純派女優であり、N所長は私の申し出を拒絶した、絶対許さないと言う。私はねばって、結局、本人が承諾すれば許そうということになった。私は志保君に会い口説いた。三日目に志保君はやっと承諾してくれた。当然彼女なりの抵抗はあったと思う。然し雷蔵によって見出され抜擢されて『破戒』でデビューした彼女の心中、それが雷蔵の狂四郎映画に少しでも力になれたらという気持があったのだと思う。撮影現場で裸になった彼女は泣いた、いじらしかった、しかしそのシークエンスは圧巻であった。

 私のもう一ツの工夫は円月殺法の表現方法だった。原作に依れば、刀を廻して頭上にきた時必ず隙が出来、そこを相手が狙って斬り込んでくるのを待って斬るとのことだった。然しこれは表現しにくい。そこで私は当時、シームレスストッキングのCMが駒をずらして現像して何本かのストッキングの動きを美しく表現しているのにヒントを得て、狂四郎の刀身をフィルムの駒をずらして現像し、刀身の動きが何本にも見えるようにして狂四郎の魔性の剣を表現してみた。この手法は以後全作品に使用されることになった。

 『女妖剣』は興行的にヒットし、長いシリーズ物となり数々の名作を生むことになった。雷ちゃんも喜んでくれ、赤い皮の帽子をプレゼントしてくれた。私の愛用の帽子となったが、或る夜、酔って何処かへなくしてしまった。惜しいことをした。(池広一夫 「眠 狂四郎 市川雷蔵・魅力のすべて」解説より)

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歴史読本1994年11月特別増刊号[スペシャル48]RAIZO 『眠狂四郎』の世界に詳しい。また、シリーズ映画「眠狂四郎シリーズ」参照。

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